第7話 星の下の約束
夜の街は少しだけ冷たかった。
プラネタリウムのドームが、静かに光っている。
「懐かしい」
美月が小さく言った。
圭太はその横顔を見た。
ショートヘアが夜風で揺れている。
首元の星のネックレスが、街灯の光で小さく光った。
「ここ、よく来てたの?」
圭太が聞く。
美月は少し笑う。
「二回だけ」
「少なっ」
「でも」
美月はドームを見上げた。
「大事な二回」
チケットを買って中に入る。
暗い通路。
ドームの中は静かだった。
丸い天井いっぱいに、まだ星は出ていない。
二人は並んで座る。
椅子がゆっくり倒れる。
美月が小さく笑った。
「圭太」
「ん?」
「ここで圭太、星の解説してた」
「またそれ?」
「しかも全部間違ってた」
圭太は笑う。
「最悪だな俺」
美月は少し首を傾けた。
ショートヘアがふわっと揺れる。
「でもね」
「ん?」
「ちょっとかっこよかった」
圭太は思わず固まる。
「なんで?」
「自信満々だったから」
二人で笑った。
そのとき。
ドームの灯りが消えた。
真っ暗になる。
「お」
圭太が言う。
次の瞬間。
星が広がった。
満天の星空。
ドームいっぱいに光が散る。
美月が小さく息をのむ。
「……きれい」
その声が、とても静かだった。
圭太は星じゃなくて、美月を見ていた。
星の光が彼女の顔に映る。
目が少し輝いている。
「好きなの?」
圭太が聞く。
美月はうなずいた。
「うん」
それから、少し笑う。
「圭太が連れてきてくれたから」
圭太の胸がドクンと鳴る。
覚えていないのに。
その言葉が、なぜか嬉しい。
「なあ」
圭太が言う。
「ん?」
「俺、また来たかったのかな」
美月は少しだけ考えた。
それから言う。
「うん」
「なんで?」
美月は星を見たまま答えた。
「約束したから」
「約束?」
そのとき。
星座の解説が始まる。
静かな音楽。
夜空がゆっくり動く。
美月は小さくつぶやいた。
「覚えてない?」
圭太は首を振る。
「ごめん」
美月は少し笑った。
それから、首元のネックレスを触る。
小さな星が揺れる。
「ここでね」
静かな声。
「約束したの」
圭太は聞く。
「何を?」
美月は少しだけ迷った。
そして言った。
「毎年、ここに来ようって」
圭太は星を見上げた。
遠い光。
何万年も前の光。
「いいじゃん」
そう言う。
「また約束すれば」
美月が顔を向けた。
「いいの?」
「うん」
圭太は少し笑った。
「覚えてないけどさ」
少し照れくさそうに言う。
「これから作ればいい」
美月の目が少し揺れた。
そして、小さくうなずく。
「……うん」
そのとき。
流れ星がドームを横切った。
子供の声が上がる。
「流れ星!」
圭太は言う。
「願い事した?」
美月は笑った。
「してない」
「早い者勝ちだろ」
「じゃあ圭太は?」
圭太は少し考えた。
それから言う。
「美月が笑ってること」
美月が驚いた顔をする。
「なにそれ」
圭太は肩をすくめた。
「なんとなく」
静かな星空。
美月は少しだけ下を向いた。
ショートヘアが頬にかかる。
そして、小さくつぶやく。
「……ずるい」
「え?」
「なんでもない」
美月はまた星を見た。
でもその目は、少しだけ潤んでいた。
そして心の中で思った。
この時間が、ずっと続けばいいのに。




