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君を忘れたふりをした―記憶を失った僕に、彼女は友達だと嘘をついた―  作者: ズッキー


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第3話 消された記録

夕方の病室は、静かだった。

窓の外は、ゆっくりとオレンジ色に染まり始めている。


高橋圭太はベッドの上で、自分のスマホを見つめていた。

事故のあと、警察が回収していたものが今日返ってきたのだ。


「……」


画面をスワイプする。


知らないアプリ。

知らない写真。

知らないメッセージ履歴。


まるで、知らない人の人生を覗いているみたいだった。


「俺……こんな感じだったのか」


ふと、フォルダの一つが目に入った。


「voice」


圭太は眉をひそめる。

開く。


そこには、音声ファイルがいくつも並んでいた。


0501

0505

0512

0518


日付だろうか。


「ボイスメモ……?」


圭太は首をかしげながら、一番上のファイルをタップした。


——ガサッ。


少し雑音が入る。

そして。


『圭太、聞いてる?』


圭太は思わず画面を見つめた。


美月の声だった。

でも。

どこか、少し震えている。


『もしこれを圭太が聞いてるなら——』


そこで音声は途切れた。


「……は?」


圭太は眉をひそめる。

短すぎる。


まるで途中で止めたみたいだ。

そのとき。


病室のドアが開いた。


「圭太」


美月だった。

いつもの柔らかい笑顔。


「起きてたんだ」


「うん」


圭太はスマホを少し持ち上げた。


「これさ」


「ん?」


「ボイスメモ、残ってた」


その瞬間。

美月の表情が、ほんのわずかに止まった。


「……どれ?」


圭太は画面を見せる。


「0512」


数秒の沈黙。

美月はゆっくりとスマホを手に取った。


「これね」


少し困ったように笑う。


「変な独り言なの」


「独り言?」


「うん。私、たまに録音する癖あるんだ」


そう言いながら、画面を操作する。

次の瞬間。


ファイルが一つ消えた。


「……え?」


圭太は思わず声を出した。


「今、消した?」


「うん」


美月は軽く肩をすくめる。


「恥ずかしいから」


スマホを返してくる。

でも。

胸の奥が、少しざわついた。


なぜだろう。

ただの音声なのに。


消されたことが、妙に気になる。


そのとき。

廊下から声が聞こえた。


「面会時間、もうすぐ終わります」


看護師だった。

美月は立ち上がる。


「じゃあ、また明日ね」


「……うん」


ドアの前で、美月が振り返った。


「圭太」


「ん?」


「無理して思い出そうとしなくていいよ」


優しい声だった。


「思い出は、また作ればいいから」


そう言って、彼女は病室を出ていった。


——夜。

病室はすっかり静かになっていた。


圭太はベッドの上でスマホを見つめる。

音声ファイルは、まだ残っていた。


0501

0505

0518


さっきより一つ減っている。

圭太は、一番古いものをタップした。


再生。

次の瞬間。


スマホから、明るい声が流れた。


『今日の一言〜!』


圭太は思わず目を見開いた。

さっきの震えた声とは、まるで違う。

楽しそうな、美月の声。


『今日はね、圭太とプラネタリウムに行きました!』


その言葉を聞いた瞬間。

圭太の胸が、なぜか強く締めつけられた。


知らないはずなのに。


なぜか——

星空が、頭の奥に浮かんだ気がした。

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