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君を忘れたふりをした―記憶を失った僕に、彼女は友達だと嘘をついた―  作者: ズッキー


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第19話 離れた方がいい

夜風が少し冷たかった。


海からの帰り道。

二人は駅へ向かって歩いていた。


さっきまでの会話が、まだ胸に残っている。

圭太はふと空を見上げた。


「星、見えるな」


美月も空を見た。

街の光の隙間に、小さな星がいくつか光っている。


「ほんとだ」


しばらく二人は黙って歩いた。

さっき圭太が言った言葉が、頭から離れない。


「俺、もう好きだから」


思い出すだけで胸が痛い。

嬉しいのに。

苦しい。


美月は小さく息を吐いた。


「圭太」


「ん?」


圭太が振り向く。


美月は少しだけ立ち止まった。

街灯の光がショートヘアを照らしている。


「もしさ」


声が少し震えていた。


「もし私たちが」


少し間を置く。


「恋人じゃなかったら」


圭太は首をかしげた。


「え?」


美月は続ける。


「今の圭太と、私」


視線を落とす。


「友達のままだったら」


圭太は少し考えた。


「それはないな」


即答だった。

美月は驚いた。


「なんで?」


圭太は少し笑う。


「だって」


頭をかく。


「もう好きだから」


美月は言葉を失う。

圭太は続けた。


「記憶ないけど」


少し照れた顔で言う。


「でも分かるんだよな」


美月を見る。


「この感じ」


胸に手を当てる。


「多分、前も好きだった」


美月の目が揺れた。

涙が出そうになる。


(だめ)

(そんなこと言わないで)


美月は無理やり笑った。


「……圭太」


「ん?」


「もし」


声が小さくなる。


「もし私が」


少しだけ間を置く。


「圭太の前からいなくなったら」


圭太は眉をひそめた。


「なんだよ急に」


美月は言った。


「どうする?」


圭太は少し考えた。

それから、当たり前みたいに言った。


「探す」


美月は固まった。

圭太は続ける。


「当たり前だろ」


笑う。


「好きなやついなくなったら探すだろ」


その言葉はとても自然だった。

美月の胸が締めつけられる。


(だめ)

(やっぱりだめ)


このままだと。

圭太は。

もっと好きになってしまう。


そして。

自分がいなくなったとき。

もっと苦しむ。


美月は唇を噛んだ。

そして。

小さく言った。


「……圭太」


「ん?」


「私たち」


その言葉が、なかなか続かない。

でも。

言わなきゃいけない。


「少し」


声が震える。


「距離置いた方がいいと思う」


圭太は止まった。


「え?」


美月は視線をそらす。


「今の圭太」

「記憶ないし」

「だから」


言葉を探す。


「ちゃんと考えた方がいいと思う」


圭太はしばらく黙っていた。


夜の駅前。

人の声が遠くで聞こえる。


そして。

圭太は言った。


「それ」


少し寂しそうに笑う。


「本音?」


美月の胸が強く痛んだ。


言えない。

本当は違う。


本当は。

離れたくない。

でも。


美月はうなずいた。


「……うん」


圭太は少し空を見た。

それから笑った。


「そっか」


その笑顔が、逆に痛かった。

圭太はポケットに手を入れる。


スマホが触れる。

そこにある。


0512


でも今日は取り出さない。

圭太は言った。


「分かった」


美月は驚いた。


「え?」


圭太は笑う。


「距離置く」


そして続けた。


「でもさ」


美月を見る。


「俺」


少し照れながら言う。


「多分また好きになると思う」


美月の目から涙がこぼれた。


「ばか」


小さくつぶやく。

圭太は笑った。


「なんで」


美月は言う。


「そんな優しいこと言うの」


圭太は少し考えた。

そして言った。


「分かんない」


夜風が吹いた。

圭太は言う。


「でも」


美月を見る。


「好きだからだと思う」


美月は顔をそむけた。


涙が止まらない。

駅の電車の音が遠くで響く。


二人の距離が。

ほんの少しだけ。

遠くなった気がした。


でも圭太はまだ知らない。

美月が。

ある決断をしようとしていることを。


そして。

その決断が―

二人の運命を――

大きく変えることを。

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