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君を忘れたふりをした―記憶を失った僕に、彼女は友達だと嘘をついた―  作者: ズッキー


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第18話 言えない理由

海からの帰り道。


夕方の光が街をオレンジ色に染めていた。

二人は並んで歩いている。


さっきまでの会話が、まだ胸に残っていた。

圭太がふと言う。


「なあ」


「ん?」


美月は少し顔を上げる。

圭太はポケットからスマホを取り出した。


画面を見つめる。


0512


その数字が、そこにある。

美月の呼吸が止まりそうになる。


圭太はそれを見ながら言った。


「これ」


「……うん」


「事故の前の日だよな」


美月は小さくうなずいた。

圭太は少し考えていた。


「俺たち」


ゆっくり言う。


「ここで喧嘩したんだろ」


美月は歩くのをやめた。

圭太も立ち止まる。

沈黙。


遠くで信号の音が鳴る。

美月は言った。


「……聞かない方がいい」


圭太は驚いた。


「なんで?」


美月は視線を落とす。


「嫌な思い出だから」


圭太は少し考えた。

それから言った。


「俺は思い出したい」


その声は静かだった。

でも真剣だった。


「全部」


美月の胸が苦しくなる。

圭太は続ける。


「だって」


少し笑う。


「俺たち、恋人だったんだろ」


美月は固まった。

圭太は言った。


「なのに」


海の方を見る。


「今の俺は知らない」


それは本当にそうだった。


美月との思い出がない。

それなのに。


胸の奥は、ずっとざわついている。

圭太は美月を見た。


「それって」


少しだけ寂しそうに笑う。


「なんかずるくない?」


美月の目が揺れた。


「ずるい?」


「うん」


圭太は言う。


「俺だけ何も知らない」


美月は何も言えなかった。

圭太はスマホを握る。


「だから」


再生ボタンの上に指を置く。


「聞く」


その瞬間。


美月が手を伸ばした。

圭太の手首を掴む。


「待って」


声が震えていた。

圭太は驚く。


「美月?」


美月は必死だった。


「お願い」


圭太の手を握ったまま言う。


「まだ聞かないで」


圭太は戸惑った。


「どうして?」


美月は答えられない。

本当の理由は言えない。


あの日。

圭太は怒っていた。

美月が病気を隠していたから。


そして。

そのあと事故が起きた。


もし圭太が思い出したら。

きっと。

自分を責める。


だから。


「……怖いの」


美月は小さく言った。

圭太は少し驚いた。


「何が?」


美月は言った。


「圭太が」


少し間を置く。


「私のこと嫌いになるの」


圭太はしばらく黙っていた。

それから笑った。


「それはない」


美月は顔を上げる。

圭太は言う。


「俺」


少し照れくさそうに頭をかく。


「もう好きだから」


美月の心臓が止まりそうになる。


「え……?」


圭太は普通の顔で言う。


「言ってなかったっけ」


美月は何も言えない。

圭太は続ける。


「まだ記憶ないけど」

「でもさ」


美月を見る。


「好きだよ」


その言葉は、とても自然だった。

まるで当たり前みたいに。


美月の目に涙が溜まる。


「……ばか」


小さくつぶやく。

圭太は笑った。


「なんで」


美月は顔をそむけた。

涙がこぼれそうだった。


「そんな簡単に言わないで」


圭太は少し驚く。


「え?」


美月は言う。


「ずるいよ」


圭太は分からなかった。

でも美月は心の中で思っていた。


(圭太)

(そんなこと言われたら)

(もう)

(離れられない)


夕暮れの街に、街灯が灯り始めていた。

そのとき。


圭太のスマホが震えた。

ポケットの中で。

画面が光る。


ボイスメモ

0512


圭太はそれを見た。

美月を見る。

それから。


スマホの電源を切った。


「今日はいい」


美月は驚く。


「どうして?」


圭太は笑った。


「今」


少し照れた顔で言う。


「いい雰囲気だから」


美月は思わず笑ってしまった。

涙が少しこぼれる。


圭太は言う。


「いつか聞く」


ポケットにスマホを戻す。


「でも」


空を見上げる。

夜の星が少し見え始めていた。


「今は」


美月を見る。


「今の美月を好きでいたい」


その言葉に、美月の胸が強く締めつけられた。


(圭太)

(お願い)


心の中で願う。


(どうか)

(この時間が)

(少しでも長く続きますように)


二人はまた歩き出した。

でも圭太はまだ知らない。


この先に―

大きな決断が待っていることを。


そして。

美月が―

あることを決めようとしていることを。

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