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君を忘れたふりをした―記憶を失った僕に、彼女は友達だと嘘をついた―  作者: ズッキー


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第15話 退院の日

病院の窓から、春の光が差し込んでいた。


圭太はベッドの上で、少し落ち着かない気持ちで座っていた。


看護師がカルテを閉じる。


「高橋さん、今日退院ですね」


圭太は小さくうなずいた。


事故から、しばらく経った。

体の傷はほとんど治っている。


ただ、記憶だけが戻らない。


「無理はしないでくださいね」


「はい」


看護師は笑って病室を出ていった。

ドアが閉まる。


部屋が静かになった。

圭太は窓の外を見た。


青い空。

久しぶりに外に出ようか。


少しだけ不安だった。

そのとき、ドアがノックされた。


「圭太?」


聞き慣れた声。


「入っていい?」


「どうぞ」


ドアが開く。


美月が入ってきた。

ショートヘアが少し揺れる。


白いカーディガンに、淡い色のワンピース。

春の光の中で、少しだけまぶしく見えた。


「退院おめでとう」


美月はそう言って笑った。

圭太も笑った。


「ありがとう」


美月はベッドの横に立った。

少しだけ沈黙。


「……ついにだね」


美月が言う。


「うん」


圭太は頭をかいた。


「なんか変な感じ」


「わかる」


美月は小さく笑った。


「ずっとここだったもんね」


圭太は美月を見た。


改めて思う。

この人は、いつもそばにいた。


毎日。

病院に来てくれていた。


それなのに。


「まだ友達?」


圭太が聞いた。

美月は少しだけ目を丸くした。


「え?」


「俺たち」


圭太は笑った。


「まだ友達?」


美月は少しだけ視線を落とした。

それから、いつもの笑顔を作る。


「うん」

「友達だよ」


圭太は少し黙った。

それから言った。


「そっか」


美月はその反応を見て、少し胸がざわついた。

でも、圭太は続けた。


「じゃあさ」


「?」


「退院祝い」


圭太はベッドから立ち上がった。


「デートしない?」


美月は固まった。


「……え?」


「デート」


圭太は笑う。


「友達でもデートはできるだろ」


美月は何も言えなかった。

胸の奥が少し苦しくなる。


「どこ行きたい?」


圭太は聞く。

美月は少し考えた。


それから笑った。


「圭太が決めて」


「俺?」


「うん」


圭太は腕を組んだ。


「じゃあ」


少し考える。

そして言った。


「海」


美月は目を丸くした。


「海?」


「なんとなく」


圭太は笑う。


「行きたい気がする」


それは本当に、なんとなくだった。


でも美月は知っている。

二人は前にも海に行った。


何度も。


夕焼けの海。

風。

笑い声。


全部思い出す。

でも圭太は覚えていない。

それでも。


「いいよ」


美月は言った。


「行こう」


圭太は笑った。


「決まり」


そのとき。

圭太のスマホが震えた。


ポケットから取り出す。

画面が光る。 


ボイスメモ


圭太は少しだけ考えた。

それから再生ボタンを押した。


ノイズのあと。

明るい声が流れる。


『今日の一言〜!』


美月の声だった。

圭太と美月は顔を見合わせる。


録音は続く。


『今日はね、圭太と海に行きました!』


圭太は目を丸くした。

美月は息を止めた。


『夕日がすごく綺麗で』


少し笑う声。


『圭太、子供みたいにはしゃいでて』


圭太は思わず笑った。


「俺?」


美月も笑う。


「うん」


録音は続く。


『でもね』


少し静かな声。


『今日、思ったの』


少し間。


『この人のこと、たぶん一生好きだなって』


圭太は言葉を失った。


録音が止まる。

病室が静かになった。


圭太はスマホを見つめた。

それから言った。


「……俺」


少し照れくさそうに笑う。


「いい男だったんだな」


美月は笑った。

でも、目が少し潤んでいた。


圭太は言った。


「じゃあさ」


美月を見る。


「海、行こう」


少しだけ真剣な声。


「今度は」


圭太は言った。


「今の俺と」


美月の胸が強く鳴った。


「もう一回、思い出作ろう」


美月は少しだけ俯いた。

それから顔を上げて笑った。


「うん」


外では春の風が吹いていた。


二人の時間が―

もう一度動き始めた。


でも圭太はまだ知らない。 


海の日。

そこに―

二人の大きな記憶が眠っていることを。

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