新たな扉
アルシェリーナが驚きながら幼子を見つめていると、ラガン夫人に肩をポンと軽く叩かれる。
振り向くと彼女は手で幼子の対面のソファを示した。
「どうぞお座りになられて下さいませ」
そうして座ると何故か隣にラガン夫人も腰掛けてきた。
トゥールは幼子の隣に座った。
アルシェリーナは幼子から目が離せなかった。
「此方がルーカス王子です」
「は?」
トゥールの言葉を、なんとなくアルシェリーナは想像していたが、頭の中で何度か打ち消してもいた。
話の流れではルーカスの事だろうと思っていたし、現れたのはこの幼子だ。
だけど⋯ルーカスは正真正銘アルシェリーナの2つ上、兄のダイサスと同い年のはずである。
目の前の幼子はどう見ても8歳?か、その位にしか見えない。
「⋯⋯どういう事でしょうか?」
「お前当たり前の質問するな!想像力はないのか?」
確かに愚問だったかもしれない。
疑問をそのままアルシェリーナは口にしてしまったのだが、それを直ぐ様馬鹿にされてしまった。
目の前のショタルーカスに。
思わずムッとして反論する。
「想像力と申されましても、これは想定外では?」
「まぁそうだな⋯お前⋯気が強いな。そういうのはあまり好まん」
ショタルーカスはアルシェリーナをお気に召さなかったようで、パタンと本を閉じてトゥールに言った。
「お祖父様であらっしゃる前陛下の御遺言ですよ、ちゃんと弁えてください」
奴隷に成り下がってるはずのルーカスの側近トゥールは噂とは真逆でしっかりと主に苦言を呈していた。
アルシェリーナは噂の一つは全くのデタラメであると納得した。
「はぁ仕方がない、トゥール説明してやってくれ」
「御意に」
主従の会話が目の前で繰り広げられているけれどアルシェリーナはルーカスの噂の傍若無人は正解なのではないかと思い始めていた。
だって目の前のショタは、とっても偉そうに踏ん反り返っているのだから。
「ドュバン侯爵令嬢、今後は城内限定ではありますがお名前で呼んでも宜しいか?」
トゥールの確認に黙ってコクコクとアルシェリーナは頷いた。
名前の呼び名など正直如何でもいい、この目の前の偉そうなショタの秘密を知りたくて知りたくて堪らないアルシェリーナの好奇心が徐々に最大値に近づいていたのだ。
「アルシェリーナ様は妖精を信じますか?いや信じて頂かないと話しは進みませんので無理矢理でも信じてください」
「⋯⋯妖精ですか?」
トゥールの強引な話しの持って行き方に面食らったが、なるほど妖精かと思い立った。
この大陸には色々と人外の御伽話は存在するが、あくまでも御伽話だった。
何故ならアルシェリーナは見たことがないからだし、見たと宣う人も知らなかった。
だがその御伽噺の中でも妖精はひょっとしたらいるんじゃない?位には信じられている存在だった。
他にも人狼や竜人、精霊王の話しなども御伽話の中には在る。
「私達もこんな事になって初めて信じる事となりましたが、妖精は存在します。現に殿下の周りには常にいらっしゃるそうです」
「いるぞ、今はお前の膝に一人座ってる」
「えっ?」
アルシェリーナは徐にショタルーカスに言われて自分の膝の位置を眺めた。
妖精が見えないアルシェリーナには何も無い空間にしか見えない。
「お前ら止めろよ。二人ともこんな事になったら如何にも出来ないからな」
ショタルーカスがアルシェリーナの膝の空間に向けて言葉を放った。そしてトゥールを肘で突く。
「ルーカス様が10歳の時、今から8年前に殿下はこの状態になりました」
トゥールの話しはやはり御伽噺の様に不思議であった。
“妖精のお気に入り”それを妖精界の言葉では愛子と言うそうだ。
それを妖精達は人の中から選ぶ。
妖精は子供が大好きで、それは必ず子供の中から選ばれるらしい。
選ばれた子は妖精が最も愛する姿で成長が止まるらしい。
ただ選ばれた子は姿は子供でも中身は成長していく、選ばれたからといって寿命は人間と同じ、何時までも生きるわけでもない。
前任の妖精の愛子が亡くなって次に選ばれたのが10歳のルーカスだった。
しかもルーカスの場合は彼の8歳児の頃が一番妖精達の好みであったから、姿を8歳の頃に変えられてしまい、それ以降はこの姿だという。
ただ1日に2時間だけは成長した姿に戻れるとのことだ。
その制限内では学園に通えるはずもない、だが詮索好きな者は必ずいるので悪評を流し、容易に近付くと自分が割を食うのではないかと思わせる様にしたという。
「まぁ傍若無人は本当ですし」
トゥールは事も無げにアルシェリーナに告げたが、ルーカスは片眉を上げてトゥールを睨んでいた。
だが好奇心旺盛のアルシェリーナはトゥールの話をワクワクしながら聞いていた、そして聞きながらショタルーカスを存分に見つめていた。
ここで思いも寄らないアルシェリーナの未知の扉が開かれた。
ショタルーカスの髪は濃紺で彼の祖父である前陛下と同じで地味目であるが瞳の色はしっかりと王家の色だった。
“金目”キラキラと光るその目に形の良い鼻と艶々な唇が小さな面積に綺麗なパーツとして存在していた。
性格的には傍若無人らしそうだけど顔だけ見れば⋯⋯。
可愛い~~~~~
食べちゃいたい!
アルシェリーナに新たな扉が開いてしまった。