愛子(めでご)の真実➂
妖精王の話は続くよ何処までも⋯⋯。
「我々はこの国に戻って先ず行ったのは我等の声を聞ける者を探す事だった」
「まさかそれが愛子なのですか?」
「そうだ」
「それは⋯それは⋯」
「主の考える通りだ。愛子は魔力がある者に限る」
「では兄上には魔力があると言う事ですか?」
「まぁそうだ、この国の国民の大半というよりほぼ全員に魔力がないというのは言いすぎだな。多少はある。その中で一番多く持つ者を愛子に選んでいる」
「ですが⋯兄上が魔法を使う所など⋯」
「勘違いするな、魔力はあるが魔法など使えるほど持っているわけではない。他の者よりもちょっと多いというだけだ。だが我等の声を聞いてもらうにはそういう者でも頼るしかないのだ。だから成長を止める」
ライアンはそこで初めて愛子が幼い姿なのを理解した。ただ可愛いだけでその姿というわけではなかったのだ。
「魔力があったとしてもそれは本当に少ないのだ。それを無理に我等の声を聞かせる為には成長を止めなければ思うように行かない。体が成長すると魔力も減って行くからな」
「⋯⋯」
「そしてその者には全てを妖精達から伝える。妖精達はこの国の争いや諍いの火種を見つけて愛子に報告する。愛子はそれを王に進言して火種のうちに争いごとを消すのだ」
「⋯⋯それが真の影という事なのですね」
「そうだ、ただ踊っているだけではないぞ」
「⋯ふっ」
ライアンは妖精王の踊るという言葉に何故こんなにもその点を付いてくるのか想像してしまって笑いが込み上げてきた。
「兄上に何か言われたのですか?」
「ふん!よくわかったな」
「兄上は毒舌、物言いが鋭いので」
「仲がいいのだな」
妖精王は目を細めてライアンを見つめていた。
兄弟が仲良しで何よりと思ったからだった。
「お前の兄に全てを話した時にな、皮肉を言われたのだ」
「?」
「ルーカスの場合はちょっと特殊だったんだ」
ライアンは妖精王の物言いに少し驚いた。兄の名を口にした彼がとても親しい者の話しをするように見受けられたからだった。
「あやつは10の歳に愛子になった、だがな本来は8の時になる筈だった」
「その2年の違いは?」
「前の愛子が2年ほど長生きしてしまったんだ」
「⋯⋯」
妖精王がさも残念そうにそういうのをライアンはなんとも言えない目で見つめた。
長生きしたら駄目なのか?単純にそう思った。
「その前の愛子は前の王に特に愛されていた、変な意味じゃないぞ!勘違いするなよ。前の王は愛子に負担をかけないようにと私に交渉してきた」
「交渉ですか?」
「あぁ悪い女がいてな、そいつに魔力が少しあったんだ。もう解っていると思うが愛子が我々と話すのにも魔力を使う、それで寿命が縮むのだが⋯」
「ええっ!」
「何だ!解ってなかったのか」
「解りませんよ!知りませんでしたから。如何してそんな事になるんですか!」
「魔力と生命力が直結しているからだが⋯そうか、魔力がないから魔力の事を知ることがないのだったな。そうかそうか」
ライアンはそうかじゃない!と憤った。
鼻息荒く妖精王を睨んでしまう。
「そう睨むな、しょうがないじゃないか。そうでもしなければ直ぐに王達は戦争をおっぱじめたり悪政を強いるのだから」
その言葉にライアンは返す言葉が見つからなかった。
そうではない!そんな事はしない!と強く言うほどの材料も気持ちもライアンは持ち合わせていないのだ。
身近に自分の欲のために他人を巻き込み蹴落とそうとする身内がいるのだから。
羞恥に顔が真っ赤に染まっていった。
「前の王はな、愛子の代わりにその悪い女の魔力を取ってくれと言ったのだ。その者は処刑するつもりだったが簡単に死なせるくらいなら魔力を吸い上げてくれと言われた」
「お祖父様が?」
「あぁそうかお前の祖父になるんだな、そうそうそいつだ。何人かの人間を並べて少しでも魔力がある者がいたならその時はそいつから魔力を吸い上げて愛子に移してやった」
「そんな事が可能なのですか?」
「あぁ、その代わり吸い上げられた者は死ぬがな。お前の祖父はどうせ処刑されるんだから良いと言っておった」
ライアンはこの国の歴史の授業で習ったことを思い出す。
祖父の代では処刑される悪人が極端に少なかったと言われていて一部の者からは優しい王として祖父は称えられていた。
過激な者達からは腰の引けた王と蔑まれてもいた。
総じて愚鈍であったとも言われていた。
悪人にも慈悲をと言ってどんなに凶悪な者でも孤島の労役に処していたと聞いていたが⋯なんの事はない皆死んでいたのだ。
表向き処刑されていないだけで《《別の処刑》》が行われていただけだった。
愛子の真実も祖父の真実も知ってしまってライアンは驚愕するばかりだった。