愛子(めでご)の真実②
「よ、妖精王?」
「ふふっ」
妖精王と名乗る目の前の人物?はライアンの返しに堪えきれないというように笑った。
「俄には信じ得ないだろうな、だが真実なのだからしょうがない」
「そ、その羽があればそういう事なのでしょうね」
「おや?なかなかに潔いな」
妖精王はライアンがみっともなく喚くのではないかと想像していた。
妖精王の証拠を見せよという愚かな事を言っていた歴代の王達も居たからだ。
ライアンの様な言葉を発したのを聞いたのは《《二人目》》であった。
「お前はいい王になるだろうな、だから愛子が推薦してきたのであろうな」
ライアンは兄から真実を知るようにと言われてやってきたが、それが特別な事だったのだと改めて背筋を伸ばした。
「さて次代の王よ、この国が妖精に守られているという噂は知っておるな」
「⋯⋯はい、誰とはなしに私の耳にも入っております」
「それは本当の事だが、さて次代の王よ、どうやって妖精はこの国を守っていると考える?」
「えっ?」
ライアンは妖精王の質問の意味が良く理解出来なかった。
言い換えれば《《正しく理解出来なかった》》。
「ほっほぉぅやはりな、人間は底が浅いのぉ」
「⋯⋯⋯!」
妖精王の侮蔑の言葉にライアンは羞恥を覚えたが妖精王の質問に答えられない自分はやはり侮蔑の対象なのだと反省して頭を垂れる。
「次代の王よ、まさか妖精がただ楽しく踊っているだけで国が豊かになるとでも?争いが起きなくなるとでも?」
「⋯⋯それは⋯」
それは図星だった。
正確には、妖精が踊っているだけで国の安寧が続くのだとは頭の中では、そんな馬鹿な事!とは思っていても、じゃあ具体的にどうやって?とは考えたこともなくて、噂は噂であって実際にルーカスの事情を知るまでは妖精の存在すら、どこか他人事であったのだから。
「妖精とは⋯王家の真の影だ」
「!」
妖精王の言葉を聞いてライアンは口元を手で抑えた。
そうしなければ大きな声で「そんな馬鹿な!」と怒鳴ってしまっていただろうから、それはこの場では悪手であると本能で悟った。
「昔、遥か昔この国の王に妖精の国は助けられた。その時からこの国と妖精国は同盟を結んでいる。詳細は割愛するがな、今となっては大した事でも無い。これからもそれは変わらないのだから」
「⋯⋯そんなに昔から?」
「あぁそうだ、」
「⋯⋯では兄上の様な愛子とは意味があるのですか?」
「ある!次代の王よ主は妖精が見えるか?」
「いえ見えません」
ライアンは大げさに首を振った。
その時、違和感も覚えた。
「ふふっ気付いたか」
「何故貴方の事を私は見えるのですか?」
「それはラガン伯爵が私に体を貸してくれているからだ」
「体を貸す?」
「あぁその辺はまた後だな、話しの順序としては愛子が先だ。後で教えてやる」
「⋯⋯はぁ」
ライアンの頭の中はパンク寸前だった。
するとふと目の前のテーブルにカップが置かれているのに気付いた。
─飲み物など誰が用意したんだ?─
突然現れた目の前のお茶に誘われるように手が伸びて口内を潤した。
ゴクリと飲み込むとパンク寸前の脳内が落ち着きを取り戻すのを感じた。
「落ち着いたか?」
妖精王にはお見通しであったようだ。
黙って頷くと妖精王が安心したように続きを話し始めた。
「妖精国がこの国と同盟を結んだ初めの頃は多くの者が妖精を目で確認できていた。それも時が経つに連れ段々と薄れていったのだ」
「昔は妖精が自然に見えていた?」
「あぁそうだ。多くの者に魔力があったからな」
「⋯魔力ですか?それは御伽噺では無く?」
「そう思うほど時が流れたと言う事だ。昔は大勢の者が魔力を持ち妖精達とも会話が出来ていた。その頃には愛子なんて者は居なかった。だがな時代が流れていくうちに血の流れも変わっていった。そのうち魔力を持つ者が段々と少くなっていって、次第に妖精が見える者が居なくなってきた」
「⋯⋯」
「その時に一度妖精国はこの国から離れたのだ。なんせ誰に話しかけても我らの声を聞いてもらえぬからな。そうして何十年か過ぎた頃、この国が戦争を始めた」
「あぁそれは歴史で習いましたが、それは相当な昔になります」
「あぁその争いは何も生むことが無く、ただ国が疲弊しただけだった」
「ですが、歴史では戦争の後、この国は発展していったと⋯⋯まさか」
「そうだ、その戦争で本来ならこの国は消滅する程、痛め付けられていた。我々はこの国の王に恩があった。だから救う事を選んだ。そして再びこの国に戻ったのだ。我々が離れた事でこの国が争いを始めてしまった結果だったからな」
「それは⋯人間は愚かだと?」
「そうだな、争いは何も生まないとその時の王が天に向かって嘆いていたな、その声が我々にも届いたと言う事だ」
ライアンは妖精王の話しに時間が経つのも忘れ聞き入っていた。