起きて〜
アルシェリーナの話しを聞いていたミナリーゼが急に黙ったまま顳顬を人差し指で押さえながら思案顔を始めた。
母親が黙り始めたのを訝しみながらも隣の寝室が気になるアルシェリーナは顎に両掌を当てながら寝室の扉を眺めていた。
色々と奇妙な事を聞かされたダイサスは喉が乾いてしまったがカップの中身は疾うの昔に飲み干してしまって空のカップを物欲しそうに眺めていた。
女性陣を見遣ると一人は顳顬に指、一人は顎に掌で共通しているのは何方も思案顔。
溜息を吐いてノロノロと自分でお茶の仕度を始めたダイサスにラクサスは自分のカップをススッと出してお代わりを催促した。
─しまった!父より先に動いてしまった─
もう少し喉の乾きを我慢していたらきっとこのお茶の仕度はラクサスがしていた筈だったのだと思い、ダイサスは後悔しながら慣れない手付きで茶器をガチャガチャと音をさせていた。
思案していたミナリーゼはその音でダイサスの手付きを見て軽い悲鳴を上げた。
「ひゃっ!ダイサス!そんなに乱暴にしたら茶器が割れてしまうわ。如何して私に声をかけないの!」
母に注意を受けたダイサスは納得いかない顔をしたけれど、後をミナリーゼが引き受けてくれたのでホッとしながら「ごめんごめん」と言った。
お茶の仕度をしながらミナリーゼが皆に自分の考えていた事を披露した。
「あのね、ちょっと考えたのですけどね。王妃様って何故マリア様やルーカス殿下を攻撃するのかしら?」
ミナリーゼの問いにアルシェリーナは別段不思議に思わず答えた。
「嫉妬されてるのじゃなくて?だってマリア様のせいで陛下に侮られたのでしょう、プライドの問題かもしれないと思ってましたけど」
「それがどうもしっくりこないのよ」
ミナリーゼは納得行かないといった顔で皆にお代わりを注ぎながら話した。
「王妃の侍女に私の遠い親戚がいるのですけれど」
ミナリーゼの言葉に折角待望のお茶を口に含んでいたダイサスが吹き出した。
「キャッ!お兄様!また隣国の使者に指導されますわよ!でもお母様私そのお話初耳ですが」
アルシェリーナはハンカチを兄に渡しながらも母に聞いた。
「だってあまり親しくもないし好きでもない人だからいけ好かないし!」
何故か相当恨みが篭ったようにミナリーゼは言う。
「ひょっとして以前リーゼが言ってた人かい?」
ラクサスが思い出したようにミナリーゼに問うと彼女は頷いた。
「学生の頃、散々嫌味や自慢を浴びせられて辟易していた人なのだけど、あの人が言うには王妃はあまり陛下の事をお好きでは無かったと聞いたのよね。不敬な事を簡単に言うのねとその時思ったから間違いないわ」
「でも王家といえども政略結婚ならそういう事もあるのでは?」
「そうよ、王家だけじゃないわ。きっとそういう事もあると思うのだけどね。それは私も承知しているわ。ただ婚約解消目前か既にしていると聞いていたのよねぇ」
「「えっ?」」
「そういえばそんな噂があったなぁ」
ミナリーゼの言葉に子供二人が驚いていると、肯定するようにラクサスまで頷き始めた。
「婚約解消したのに結局婚姻しないと行けなかったのが腹が立ったからとか?」
アルシェリーナは憶測で言ったが自分でもその憶測は無いと思いながら口にしていた。
「婚約解消してたなら嫉妬は可怪しいよな、プライドって言ってもそもそもそれなら婚姻しなければ良かったのだし?王妃の経緯も変だよね。でも母上のは噂だよね」
「私は侍女から聞いたもの、噂じゃないわ。そういえば私がドュバン侯爵家に嫁ぐのが気に食わないとも言われたのだけど、それも変よね」
「変だな」
「如何して?」
両親の言葉にアルシェリーナが疑問に思い聞くと
「「だって没落寸前位言われてた侯爵家だぞ(よ)」」
「あっ!そっかぁ」
アルシェリーナは、王妃が側妃やルーカスに嫌がらせ等するのを不思議に思っていなかったけれど(派閥争いだろうと考えてた、それか嫉妬)セリナの件の様な、ここまで込み入った画策までしているのを考えると、その裏に何か周りが思っている以上の事がありそうで不安が増し増しになってきた。
─早く!ルーカス様目覚めて!─
胸の前に両手を組んで寝室に念を送っていると両親や兄までが同じ動作をしていた。
『目覚めよ!ショタルーカス!』
ドュバン侯爵家一同の総意だ。




