セリナの災難①
「シェリー⋯⋯流石にこれはお父様の面目丸潰れ案件ですよ」
ミナリーゼに「メッ!」と睨まれながら諌められてアルシェリーナは肩がビクッと震えおそらく2センチ程縮んだ気になった、絶対気のせいではない。
「ごめんなさい」
アルシェリーナは素直に謝ると潤潤の目でラクサスを見上げた。
「女はいいよなぁ、その目で大概は許される」
兄ダイサスの言葉には軽く一瞥したが言ってることはご尤もでそれを承知で尚も続けて父には上目遣いを続ける。
その仕草にラクサスはたっぷりの溜息を大きく吐き「もういい」と言った。
「で、何があったんだよセリナ嬢に」
兄ダイサスの言葉にアルシェリーナは片眉がちょっと上がった、だが直ぐに下ろしてニマッと笑む。
「お兄様も婚約して礼儀という物を身に着けたのですね」
アルシェリーナのニマニマ顔にダイサスは途端に顔を真っ赤にして憤慨し始めた。
それというのも兄のダイサスはセリナがただ単にアルシェリーナの親友というだけで、自分の妹分にでもなった気で“セリナ”と呼び付けにしていたのだ。
流石に初対面ではそんな無礼な事はしなかったが二度目にそれで無礼な兄をアルシェリーナは二度見した物だ。
当の本人のセリナが笑って許していたので事なきを得たのだが。
それが王女と婚約しただけでこの代わり様。
お目々が優しい鯨になるのは否めないだろう。
「そんなに揶揄わないであげて、隣国から教師が派遣されて四苦八苦なのよ」
「えぇっ?」
そんな面白い事になってるのを何故私が知らなかったのだとアルシェリーナは臍を噛む。
「まさかお兄様の礼儀知らずがバレてるなんて!」
「そうではない!様子を見に来た侍従がちょっとばかり指導して行っただけだ」
ダイサスの言い訳が面白いアルシェリーナは内弁慶の兄を揶揄えるのが楽しくて仕方なかった。
セリナの一大事が何処へやら飛んで行ってしまって親友失格である。
「お前俺を揶揄ってていいのか?今そんな場合じゃないんだろう」
ダイサスの指摘にやっとセリナを思い出したアルシェリーナは「ああっ!」と叫び頭を抱えて反省した。
─セリナごめんなさい─
そこでやっとラクサス達に説明をするのだった。
それはセリナとトゥールが婚約前に二人の相性を確認するという謂わばお試し期間の時だった。
その日は二人でカフェでお茶とお喋りを楽しんでトゥールはいつものようにセリナをタイオール伯爵邸へと送り届けた。
その後、セリナはそのカフェにハンカチを忘れた事を思い出した。
というより家に帰ったらハンカチが無くて最後に使ったのがカフェだったと思い至ったというのが経緯だ。
慌てたセリナは侍女にハンカチを取りに誰か遣いを出してくれと言った。
普段ならそこまで慌てないがそのハンカチはセリナの従妹が誕生日に刺繍入りでプレゼントしてくれた物だった。
しかも初めて刺したと恥ずかしそうに渡された物だ。そんな大事な物をまさか自分がうっかり忘れるなんて信じられなかったが、無いものは無いので至急取りに向かってもらった。
忘れ物としてカフェに保管されていることを期待して。
だが遣いに行った者は待てど暮せど帰ってこない。
夕食も終わり部屋で寛ぎながらも気にはしていたが、帰ってきたという知らせも来ない。
セリナは意を決して父親であるタイオール伯爵の執務室へと向かった。
事情を聞いた伯爵も可怪しく思い再度カフェに遣いを行かせようとした所で、騎士団の訪いを知らされた。
聞くとその遣いが窃盗の罪で捕まったという。
騎士はその遣いの話しの裏付けにタイオール伯爵家を訪ったと言うことだった。
本日はあと一話夜に更新します




