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生贄令嬢の幸せ  作者: maruko
本編
3/48

ハズレ

「はぁ」


アルシェリーナは2ヶ月前16歳になったばかりだ。

ドュバン侯爵家では皆に祝われて、従兄弟叔父であるマリトス公爵からも祝いは届けられた。

「これから婚約者の選定にも入らないとな」戯けながら言った父の言葉にポッと頬を染めて、まだ見ぬ決まってもいない婚約者に思いを馳せていた。

アルシェリーナはその日の事を思い浮かべてあの頃は夢見がちの少女であったのだと目の前の現実を見つめて、少し前の出来事が遥か昔のように思えた。


今日は先日王命により婚約者になったルーカスとの初顔合わせで登城《《させられた》》。

ルーカスは兄のダイサスと同じ年であったが、兄とルーカスに特に接点はなかった為(王族嫌悪でダイサスはルーカスを避けていた)噂でしか知らないルーカスを自分の目で確かめなければと意気込んでアルシェリーナは案内された東屋へと向かった。


向かった先にはまだルーカスは来ておらず、促されて座った椅子に待つこと1時間だろうか?

如何(とう)に約束の時間は過ぎていると思われる。

まだ座られぬ空席(現実)を見つめながらアルシェリーナは溜息が溢れた。


どのタイミングで帰ればいいのかも解らないアルシェリーナは結局、それからだいぶ時間が進んだ夕暮れ時に何杯お代りしたか解らないお茶のカップをソーサーに置いたときに側に控えていた王宮の侍女から「そろそろ」と退席を促されて立ち上がった。

何がそろそろなのか、こちらが無理に押しかけたわけでもないのにと、その侍女の言い方にカチンと来たが、賢いアルシェリーナはそれを流した。

こんな礼儀のなっていない王家にまともな人が働いているわけがないと思ったからだ。


それは強ち間違ってはいない。

いないが、その現象は側妃の宮限定ということにアルシェリーナは気が付かなかった。

だから帰り際のアプローチですれ違った彼もその手の類だと勝手に決めつけていた。

彼とはアルシェリーナと学園で同じクラスであるラガン伯爵家の子息であった。


翌日、教室に入るとアルシェリーナを今か今かと待っていた親友のセリナがアルシェリーナの席に近付いてきた。


「おはようシェリー昨日はどうだった?」


当然その質問が来る事は解っていたアルシェリーナは用意していた言葉を返す。


「お昼でいいかしら?」


アルシェリーナの言葉でセリナは粗方理解した。

上手くいかなかったのだと。

察したセリナは、にっこり笑って「えぇ」と返した。

その後は課題の話しや今日の授業の事など他愛もない話しなどをホームルームが始まるまでお喋りした。


昼休みをアルシェリーナはいつもセリナと二人で取っていた。

いつもは食堂でランチを注文するが今日の話しは人に聞かれたくない話しだから、二人はランチボックスを頼んで外に出た。


学園の至るところに生徒が休めるようにとベンチが置かれている。

二人は裏庭に隠れるように置いてあるベンチに腰掛けた。

そこはアルシェリーナの兄であるダイサスに教えてもらった穴場の休憩所だ。

あまり知った者が居ないのでそのあたりは今日も誰も居なかった。


ランチボックスのサンドイッチをパクつきながら行儀の悪さには目を瞑り二人でお喋りを楽しんだ。

食べ終わりランチボックスと一緒に購入した紅茶を飲みながら、朝と同じ質問をセリナがした。


「昨日はどうだったの?」


「すっぽかされたわ」


「えっ?⋯ほんとに?」


驚くセリナに苦笑しながらアルシェリーナは頷いた。

そして王宮の侍女の悪口へと発展する。


「こちらがお願いして登城したわけでもないのよ、なのにそろそろって言ったの!そろそろって何なのよ!そう思わない?」


昨夜夕食の席でも家族に、同じ愚痴を放ったアルシェリーナだったが、まだまだ怒りは収まらずセリナにも披露していた。

アルシェリーナの怒りに同調とそして苦笑を交えてセリナは頷いた。


「本当ね、侍女の質が悪いのかしら?仮にも王子の婚約者にかける言葉は、それが最初ではないわね」


「でしょう!先ず己が主人の失態を詫びるべきよね!」


「そうね、殿下に怒ってはいないの?」


不敬な言葉だがアルシェリーナと二人の気安さでセリナは聞いた。


「怒りというよりもそれは想定内だからいいのよ、元々上手く行くとか思っていないし。来ても黙り(だんまり)を覚悟もしていたから」


「そうなの?」


王命での婚約を諦めきったアルシェリーナにセリナは甚く同情している。

学園でルーカスの評判は良くない。

実を言うと貴族の子女皆が彼の婚約者に選ばれたら如何しようと慄いていたのだ。

だが王子の婚約者が決まっていないのに事業絡みの政略も無く婚約者を王子よりも先に決める事が憚られていた者達は、此度の王命を他人事だと思って歓迎していた。


自分じゃなくて良かった。


それが学園に通う貴族子女の総意であった。

それほどにルーカスというのはハズレ王子なのだ。





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