始めよう
ダートンはここで一気に皆の気を高めて廃妃に向けて画策しようと意気込んでいたのだが⋯。
アルシェリーナの登場で高まった気が一気に分散されてガックシ肩を落とした。
その様子を横目で見てルーカスは笑う。
「父上、己の失態は己でどうにかしてくれ。子に背負わすな」
「⋯⋯」
それはご尤もであるが元来気弱な君主は情けない顔を《《その子》》に向ける。
フゥーと大きな溜息を吐きトゥールを見やり、その後は一生懸命に思いの丈をアルシェリーナに語っているセリーヌへと気を向ける。
恋の屍になった弟の事も少しではあるが片隅にだけでも気にはしていた。
トゥールは2、3枚の書状をダートンに渡すと少しだけ説明を行う、読みすすめたダートンはトゥールを見上げ、そしてちゃっかりアルシェリーナの膝の上にお座りしているルーカスを見る。
それから頷いて「余は帰る」と立ち上がり離宮を去った。
後に残された三兄弟とアルシェリーナはいつの間にか居なくなったダートンには目もくれず和気藹々とお茶に明け暮れた。
ライアンだけはまだ失恋の痛手を負っていたが自分の中で切り替えた。
何故なら今日のアルシェリーナはいつも以上に可愛らしい魅力的な女性で見ているだけでも気持ちがアゲアゲになったから。
─兄の物でも見るだけなら許されるだろう─
女々しいライアンだったが、今日だけは妖精達も彼を慰めていた為ルーカスは許した。
「「みんな仲良しねぇ~」」
「「意地悪な人はダメダメよぉ」」
「「楽しく楽しく踊りましょう」」
妖精は今日はとっても気分がいいようだ、口々に言いながら踊るから、何時もの閑散とした応接室に虹色の光が差してきた。
その光を見ながらトゥールは本日何杯目かわからないお茶のお代わりを注いで回った。
◇◇◇
離宮を後にしたダートンは直ぐ様、自身の側近を呼ぶ。
「此の者たちを集めよ」
先程トゥールから渡された紙を側近にスライドして指示を出したあと、机に座り手紙を認める。
久しぶりに書く個人的な手紙の宛先はマリアだった。
昔はよく書いていたがアネトスの顔色を伺う内に疎遠になっていた事にも今やっと気付き実感した。
「魔窟にしたのは私のせいだな」
呟きも虚しくベルを鳴らして腹心の侍女を呼んだ。
「これは必ず手渡ししてくれ」
受け取った手紙を見て侍女は驚く、そして陛下の顔を見ると彼の決意が伺えた。
「御意に」
この言葉を発したら彼女は侍女ではなく“影”として動いてくれるだろう。
立ち上がり窓から外を見下ろすダートンは戦いの火蓋を自分が切った事を実感していた。




