舞は踊れない
セリーヌはいつも一人だった。
乳母もいた、侍女もいる、彼女が住んでいる離宮に使用人は沢山いる。
決して独りぼっちではないが、心がボッチだった。
ゲート王国の王城の敷地はそれだけで一つの街のように広い。
その敷地を各々に住みわけられている。
この国では王宮は国王の居住しか許されていない。
一応王妃の部屋もあるが、ダートンはアネトスよりもマリアを先に娶ったのでアネトスにその部屋を与えていない。
今敷地は王宮、王妃宮、側妃宮に分けられている。
それぞれが産んだ子も、そこに住むことになっていた。
ライアンは王妃宮に住んでいるが、セリーヌは生まれたときに王妃宮より馬車で10分程の所に建てられた宮に移された。
その、たった10分の差は姉弟の待遇の差でもあった。
それがどうしてそうなのか、セリーヌは学園に入学するまでよく知らなかった。
周りの皆が上手に隠してくれていたからだ。
だがいざ入学する段階になって登校を禁止されてしまった、その時は皆隠しようがなかった、何故なら王妃が直接セリーヌに自分の立場を知らしめたから。
セリーヌはお茶会などにも出席したことが無かった、だから学園に入ったらお友達を作って、一緒に勉強したりお喋りをしたりと、きっと楽しいことがあるのだとワクワクとその日が来るのを毎夜指折り数えながら待っていた。
その願望は脆くも崩れさった上に自身の立ち位置を認識した、それからはできるだけ宮の中で息を潜めて暮らしていた。
だから今日はとてもとても嬉しいのだ!
─私の人生でこんな日が来るなんて─
陛下から用意された馬車の窓から城の敷地を眺めながらどんどんと奥に進んで行っているときは、ひょっとしたらこのまま自分は城外に出されて市井で暮らせと言われるのではないか、どこかに幽閉されるのではないかと暗い気持ちになっていた。
あの時はこんなに楽しい事が待ってるとは思わなかった。
遠目でしか見たことがない兄は、久しぶりに見たら小さくなっていて、もっと久しぶりに見た弟はすっかり思春期で恋を拗らせ王子だった。
でもそんな事よりもセリーヌが嬉しいのは同年代の女の子、アルシェリーナの存在だった。
兄の婚約者だから自分とは表向き敵対する関係かもしれないけれど、こんな中途半端な立場のセリーヌとひょっとしたら親しく話しをしてくれないかしら?
セリーヌは期待に胸が膨らんだ。
だから話すきっかけは何でも良かった、それが弟の心の傷に塩を塗りこむ事になっても。
だって弟は大事にされてきたでしょう?
私にはこの時しか無いの!
だから、だから、アルシェリーナ様、私ともお話しして下さいませ。
セリーヌは心の中で呟いた⋯⋯
⋯⋯つもりだったが、その願望は丸っと声に出ていた。
「えぇ私で良ければ。セリーヌ様と呼んでもお許し頂けますか?」
アルシェリーナのその言葉にセリーヌは歓喜の舞を披露したくなった。
踊ったことはないけれど⋯。




