二人の心情とアホな父
常にない王子王女の集まりに陛下まで加わり離宮の応接室は、この国の貴族達が見たら恐縮するような光景ではあるのだがトゥールは何食わぬ顔でお茶のお代わりを注ぎ始めた。
動じないルーカスの側近にライアンは目を細めて観察した。
早い話が羨ましかった。
自分にはまだ側近という側近は居ない、候補だけは6人ばかし侍っては居るが全て母である王妃と侯爵である祖父の息のかかった者ばかりで、彼らの主な仕事はライアンのご機嫌を伺うことであった。
いつもニギニギと手揉みしながら目はニヤニヤとオノマトペなオンパレードの彼等に辟易していた。
だからこの動じない側近に羨望の目を向けていたが、ルーカスがそれに気付き紹介した。
「これはトゥール私の手足だ」
人を手足と言う兄の横柄な物言いに驚きもしたがそれを聞いたトゥールがニヤけながら「殿下の手足、時には頭脳のトゥール・ラガンです、以後お見知りおきを」と、それ以上に横柄な物言いで、二人の信頼関係が伺えて益々羨ましさが募る。
そんなライアンの心情をわかっているかのような兄の飄々とした態度が自分との血の繋がりを感じた。
今までそれ程に話す機会がなかった兄
自分よりも下に位置付けられた兄
妖精に愛されたがゆえに自由のなくなった兄
その全てにライアンは兄の苦難な道が自分故なのだと責任を感じた。
─兄上は私が守る─
妖精達はライアンのその決意に気付き彼の周りで握り拳を力強く上下に動かし「ガンバ」と言いながら何故かサンバを踊ってる、苦笑しながらルーカスはその様を見つめていた。
一方セリーヌはというとまだ思考がガッチガチに固まったままだった。
彼女は母である王妃を生まれた時から落胆させた。
それはセリーヌが女だったからだ。
セリーヌの身体に男性の象徴が付いていないのを真っ先に確認した王妃は思わず「セリーヌはいらない」と叫んだ。
この国では必ずしも継承は男と決まっているわけではない、過去には女王の時代もあった。
それでも一部の古い考えの者はいて、王妃の実家である侯爵家はその最たる考えの一族だった。
故に王妃の考えもまた然り。
セリーヌが生まれた時から離宮に追いやられたのはその性別ゆえだった。
それ以降殆ど見た事がなかった母に代わりこっそりではあるが父である国王が気に掛けてくれた。
乳母の手配、教育、衣食住これら全てに王妃がセリーヌに関与する事はなかった。
ライアンとは真逆であった。
そんな少しばかり寂しい生活の中でセリーヌの心にポッと灯りを灯してくれたのが、御伽話を詰め込んだ絵本だった。
それは3歳の誕生日に父が侍従を通してプレゼントしてくれた物だった。
それから14年折りにつけ読む物語はセリーヌの心の拠り所なのだ。
その中にあった妖精の物語。
それは妖精の王子が不遇な境遇の少女を見初め迎えに来るという物語。
いつも側にいてくれる侍女の話では実際に見た事はないが妖精は居るのではないかと昔から言われていると聞いた。
だからセリーヌは子供っぽいと言われても妖精の王子に迎えられるその少女に自分を重ねて「いつか迎えに来てほしい」と切望していた。
それがまさかの妖精の王子(根本的に違うがセリーヌは愛子を勘違いしている)が兄だったなんて⋯セリーヌは身も心も固まってしまった。
そんな兄弟の思いなどニブチンのダートンが気付くはずもなく、彼は淡々と話し始めた。
しかも歯に衣着せぬ物言いのド直球で!
「王妃を廃したいと考えている」
セリーヌとライアンは王妃の実子であることなど気遣うこともなく。
そのダートンの言葉にルーカスは「父はアホだ」と呟いた。
その横でトゥールが頷いた。




