弟妹
ルーカスのいる宮は側妃の宮よりもずっと奥まったところに建てられている。
より城下に近い場所だ。
おそらくこれは前の愛子のマイケルの為に家に近い所にと、この場所を前陛下が選んだと推察される。
宮の中には凡そ王子が住むような作りには程遠い。
部屋数も少ない上に普段使っているのは一室のみだった。
ただ最近は珍しく応接室を使っていた。
先日陛下が訪ったからだ。
今日もその部屋を使う予定だ。
陛下に連れられて来た二人の弟妹が既にソファに座っている。
トゥールが最高級茶葉でお茶の準備をしているのが芳しい匂いで解った。
応接室の中にある別室で対面の準備をするルーカスはかなりドキドキしていた。
周りに侍る妖精達が「頑張れー」と励ましてくれているのは隣にいる父には聞こえていない。
二人ともルーカスの幼い姿を受け入れてくれるだろうか?
いつも毒舌のルーカスだが案外気が弱い。
「では行こうか」
陛下がルーカスの小さな背に手を添えてゆっくりと扉を開けた。
「二人とも待たせたね、こちらがお前たちの“兄”のルーカスだ」
父である国王に内密の話だと言われた二人は先ずは王の執務室に呼ばれた。
そこから三人だけで誰一人として共も付けずに第二王子という名の“兄”が住む離宮へと連れてこられた。
そして「暫し待て」と言って部屋の中の扉へと消えたと思ったら暫しどころかかなり待たされた。
そして現れたのが⋯⋯。
最初の反応は目がテン
これは二人とも同じだった、そしてわかりやすく動揺したのは意外にもいつも飄々として何を考えてるか解らないと表現される皮肉っ子のライアンだった。
「あっ兄、兄、あっあっ兄上!?」
その見事な慌てっぷりにルーカスの方がどう返していいのか戸惑ってしまい頷くだけに留めた。
妹セリーヌの方は最初は目を見開いたが、王女教育の賜物かその後は動揺を表向きは出さなかった。
「お久しぶりにございます」
そう言ったが妖精達が言うにはセリーヌも充分驚いてると教えてくれた。
「あぁ久しいな」
ルーカスがそう言ったあとは陛下が二人に愛子の説明を始めた。
真剣に聞いている姿を見ながらルーカスは妖精達が二人の胸の内を伝えるのを黙って聞く。
一通りの説明のあと、最初に質問したのはセリーヌだった。
「お兄様はいつからその姿に?」
「十の年だ」
「お力になれず申し訳なく思います」
「私の方こそお前の力にはなれなかった、すまん」
兄と姉の会話でライアンは自分が一番二人の力にはなれていない事を申し訳なく思った。
「私は、私こそお二人の力にはなれておりません」
このライアンの言葉にダートンは驚いた。
そんな事をライアンが言うとは思わなかったからだ、ダートンの知るライアンは皮肉屋で常に相手を食ったような言葉ばかりを並べる息子だった。
改めてダートンは自分が一番解ってなかったのだと身につまされた。
「どうだ?」
父の問にルーカスが答える
「どちらも大丈夫だそうです」
ルーカスの周りにいた妖精達が今は三人の周りをクルクルとダンスを踊っている。
その様子を見て二人がルーカスのこの秘密を吹聴すせずに受け入れてくれると判断した。
「そうか⋯では次に進めなければな」
ダートンはルーカスにそう言って、今度は対面に座る二人の子供に向けて言った。
「お前達にはこれから考えてもらわねばならないことがある」
ルーカスは陛下の言葉を真剣に捉え緊張の面持ちで固唾を飲む弟妹を静かに見つめた。




