ドュバン侯爵の決意
ドュバン家は30年前までは伯爵家であった。
前ドュバン伯爵の長年の労に報いるという口実で叙爵されて『侯爵』を賜ったが、ドュバン家では少しも有難くなかった。
却って叙爵により税を増やされて迷惑千万であった。
そしてラクサスの父である前侯爵マイケルは不運な上に愚かな男だった。
それが今日迄尾を引いているのだ。
マイケルの妻でありラクサスの母だったエスカリーナは、元々はマリトス公爵の息女で前王のサイラスの婚約者だった。
だがサイラスが学園生時代に前王妃であるミナーラと恋仲になりあろう事かエスカリーナとの婚約を白紙撤回に持ち込み剰え当時の自分の側近だったマイケルと無理やり婚姻させた。
当時マイケルには相愛の婚約者がいたにも関わらずである。
マイケルの愛する婚約者は子爵家の息女であった事と公爵家の息女のエスカリーナは非の打ち所のない令嬢であった事、またその婚姻は王家の鳴り物入りであった事などから婚約者はマイケルから身を引いた。
サイラスの尻拭いのためにエスカリーナを押し付けられたマイケルはその後、荒れに荒れてドュバン伯爵家の身代を傾けさせた、辛うじてエスカリーナの生家であるマリトス公爵家の援助で持ち直したが、当時の宰相であるエスカリーナの父マリトス公爵に苦言を呈された前王のサイラスは罪滅ぼしにドュバン家を叙爵した。
頭があまり良くない上に他人の気持ちを慮れないサイラスならではの罪滅ぼしだった。
良かれと思っているのが尚更悪い行動だった。
何故なら貴族が国に納める税金は家の家格によって最低ラインが決まる。
マリトス公爵家に何とか支えられて生き永らえていたドュバン伯爵家は、叙爵されて侯爵になり更なる税を取り立てられて尚一層困窮していった。
叙爵に伴い受け取った金子など焼け石に水だった。
そもそもサイラスがマイケルにエスカリーナを縁付けたのも良かれと思っての行いだった。
マイケルに対しては公爵家との縁をエスカリーナにとっては婚約白紙に伴い次の嫁入り先の世話をしたつもりだった。
そこに卑怯な媚薬という手を使ったのは目的のために手段を選ばない浅慮で無駄に権力のあったサイラスならではの考えだったが⋯。
その後不本意ながらもマイケルと婚姻したエスカリーナは、自分との婚姻で自暴自棄のマイケルに寄り添いながらも何とかドュバン家を盛り立てていくために、ラクサスの妻を当時羽振りの良かった子爵家の息女であるミナリーゼに決めてドュバン侯爵家への助力をお願いした。
幸いにもミナリーゼは気立ての良いそして聡明な娘であった。
子爵家の力も借りてやっとの思いでラクサスはドュバン家を困窮から立て直したばかりで、この王命である。
せめてルーカスが王妃の腹からの王子であればよかったが、このサイラスにしてこのダートン有りと言ったところか。
婚約者のアネトスがいたのにも関わらず学園生の時に知り合ったマリアを正妃を迎える前に側妃に迎え誕生したのがルーカスだ。
本来であればルーカスは第一王子であるがそれは議会も前国王のサイラスでさえ許さなかった。
生まれながらに第二王子という肩書のルーカスは脳内も尻も軽い母親のマリアにそっくりの問題児である。
そんな男が大事に育てたアルシェリーナの婚約者等と。
娘が大声で『罰』とはっきり叫んだのも傍から見たら不敬だが、ラクサスとて同じ気持ちであったから咎めることはしなかった。
だが家の外で言うのは控えるようにと釘は刺しておいた。
文句タラタラで部屋を出て行くアルシェリーナの後ろ姿にラクサスは「このまま黙って言いなりになどならないからな」と心の中で誓った。
幸いにしてまだ婚約の王命が降っただけで手続きはしていない、アルシェリーナに少しでも有利になるように条件を付けようと、ラクサスは手紙を認めトーマスに渡した。
「マリトス前公爵にこれを」
この件は早急に相談するべきだと判断した。
いつまでも煮え湯を飲まされるわけにはいかない。
ラクサスは愚かだった亡き父マイケルを思い出しながら、そして何の罪も無いのに婚約者に裏切られ夫に蔑まれ、それでも自分を大事に育ててくれた亡き母エスカリーナの為にも決意を新たにするのだった。