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トゥールの父②

話しを続けていたらアルシェリーナの膝枕で寝転んでいたルーカスがいつの間にか寝入ってしまっていたことにトゥールは気付いた。


「あちゃ~もうそんな時間ですかね」


そう言いながらルーカスを抱き上げて、隣の部屋に移動していた。

所在なげになったアルシェリーナは自分も退席しようかと腰を上げたところで、隣の部屋からトゥールの声がかかった。


「アルシェリーナ様、申し訳ありませんが侯爵にも伝えたい話しをしなければなりません。此方にお呼びすることは出来ませんか?」


トゥールが声をかけながら何をしているかを解っているアルシェリーナは声のする方へ返事をした。


「解りましたわ、トゥール様お食事は如何されますか?」


「取り敢えずここで食べます」


「こちらで用意しましょうか?」


「いえ、急ぎ離宮に戻って殿下の分も取ってきますのでご心配には及びません。結局殿下の望み通りになってしまいましたね」


最後の方は言葉を発しながら此方の部屋に戻って来ていた。

そしてそのまま「では後で」と言ってアルシェリーナが来た扉とは反対の方にある扉を開けて離宮へと戻った。


アルシェリーナはまたクローゼットの邪魔なドレスをグイッと横に押しやりミナリーゼの部屋へと戻った。


トゥールが先程ルーカスを寝かしつけた部屋にはベッドが置いてあるのは承知だが、寝ているはずの可愛いショタルーカスを堪能することは出来ない。

それが(悔しいなぁ見たいなぁ)と毎回寝入ったルーカスを堪能出来ない己の年齢に独り言ちるのだった。

何故ならルーカスは今ベッドで真っ裸になって横たわっているからだ。

初めて聞いた時、不覚にもアルシェリーナは涎が出そうなほど生唾が込み上げた。

ここまで来るとアルシェリーナは令嬢ではなく“変態”であるが、まだ心に留めているので周囲にはバレていない《《はずだ》》。


トゥールが帰ってくる前にと父のラクサスの執務室へと向かった。



◇◇◇



ラクサスとアルシェリーナは先程の部屋にて、トゥールの食事が終わるのを手持ち無沙汰に待っていた。

あれからかれこれ1時間半程経っているがルーカスはまだ起きてこない。


食事を終えたトゥールの話しは彼の父の話しの続きだった。


トゥールの父であるザッカーはアルシェリーナの父であるマイケルから遺言のような願いを託されていた。

それが次の愛子(めでご)に自分の孫娘が添えるようにして欲しいというものだった。

そしてザッカーにはその者の後ろ盾になって欲しいと願われた。

その時点で次の愛子がルーカスというのは決まっていなかったが、マイケルからの願いを遺言としてザッカーは受け止めた。


それと同時にザッカーは決意している事があった。

それが愛子が自由に生きられる事だった。


「自由に⋯ですか?」


ラクサスの問いにトゥールは頷きながら「ハイ」と答えた。


「父は三代に渡って愛子に関わりました。それで感じたのでしょう、愛子に選ばれた者の不自由さを。今殿下は一日二時間だけ本来の姿に戻れます。ですが⋯それはとても短すぎる。ですが実は妖精達の気分しだいで一日中本来の姿に戻れる事も出来る事が解ってもいるのです」


「「ええっ!!」」


ラクサスとアルシェリーナの二人は同時に声を上げた。


「唯それを行うと寿命が縮むというリスクもあるのです」


トゥールの話では愛子の普段の姿(幼い姿)は妖精化しているものなのだそうだ。

唯、元々人間だからその部分がそれを凌駕してしまう時間がある、それが一日二時間だけ本来の姿に戻れる時なのだそうだ。

その本来の姿に戻る前に必ず愛子は寝てしまう。

それは妖精化から人間に戻るための時間なのだそう。

それを無理矢理、妖精の力で行ってしまうとその分生命力が減少してしまうのだそうだ。

だから代々の愛子は短命だという。


ちゃんと睡眠をとって自然に戻ればそんなに短命になる事は無いのだが、やはり生きていれば何かと大人にならなければならないときがある、その時に代々の愛子は妖精にお願いしてしまう、そして寿命を縮める。


その理不尽さにザッカーは憤っていたそうだ。


そして今ザッカーはそれをどうにか出来ないかと旅に出ているのだとか。


家督と妻を従弟に委ねて一人で何処かに旅立ったのだとトゥールは寂しそうに話した。


「ラガン夫人は色々とご存知なのですか?」


「えぇ母上は全てを知っています。ひょっとしたら父上が生きていないかもしれない事も」


「えっ?」


「元々は旅に出る予定は無かったのですよ、唯文献などを調べたり殿下に頼んで妖精達から情報を聞き出したりしていました、ですが⋯ドュバン侯爵はご存知でしょうが、ラガン家は本来王妃派なのです」


「王妃派ですか?」


娘の問いにはラクサスが肯定した。


「ラガン伯爵家は昔から王家の教育係を担っている文官の貴族だ。ただ何代か前の夫人が今の王妃様のご実家の出だと聞いている」


「えぇそうなんです、それなのに私も殿下の側近になりましたし、父上は教育係になりました。王妃派にしてみれば裏切り者です。それもあってラガン家を守る為に父上は表立っては身を引いたのです」


「では、今ラガン夫人の立場は良くないのではないですか?」


アルシェリーナが不安に思い口にするとトゥールは首を左右に振った。


「アルシェリーナ様の教育係は前陛下の遺言に組み込まれてました、そして現陛下が王命を出してくださってますので」


「ですが先程、そのお父様が生きてはいないかもと⋯」


言いにくそうに疑問を口にしたアルシェリーナにはその先は何となく解っても、でもしっかりと聞きたいと思った。


「そうですね、父上は旅に出ると言って手紙を残しましたがその部屋には血も残っていたのです。ですから⋯はっきりとはわからないのです。私も母上も殿下も父上の安否は解らないのです。妖精達も口を噤んでいますので」


「妖精が?」


「はい、殿下がいくら聞いても父上の事だけは教えてもらえないそうです。ただそこに少しの希望も見出してはいます。だって儚くなっているのなら妖精ははっきりと言うと思いますからね」


トゥールがそう笑顔で言ったときチリンと鈴の音が聞こえた。

ルーカスが起きたようだ。

その音に反応したトゥールはすぐ様立ち上がり隣室へ消えていった。


その後ろ姿を見てアルシェリーナはザッカーを思う。

そして疑問も浮かんだ。


(トゥール様は如何してお父様にもこの話を聞かせたかったのかしら?)


用意されたお茶は既に温くなっていたから新しく用意しようとアルシェリーナが立ち上がったとき、隣室の扉が開き、ショタじゃないルーカスが此方の部屋に入ってきた。


濃紺の重たく見える髪をかきあげて金目を片方瞑りながら登場したルーカスは、うっとりするほど美丈夫な青年だった。



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