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可愛いは正義

“魔窟”から何とか逃げ延びたアルシェリーナは早々に王宮(そこ)を辞して侯爵邸へと帰還した。

嘗て祖母の部屋であり今は母ミナリーゼの部屋であるそこへノックもせずに入り込む。


「毎回コソコソするのはちょっと面倒くさいのよね、侍女の目もあるし、これは要相談だわ」


気持ちが呟きになって漏れてしまう。

果たしてミナリーゼはそこには居なかった、もし居たらお小言を貰っていただろう。

舌をペロッと出して今度は声に漏れないように心の中でそっと呟く(失敗、失敗)

ミナリーゼのドレッサーに向かい鏡の裏に手を入れる。そこにはレバーが仕込んであった。

グイッと引いてからクローゼットを開くとドレスの隙間から隣室の灯りが薄く漏れて見えた。


邪魔なドレス達を横へずらすとアルシェリーナの目の先でソファに座るミナリーゼの後ろ姿が見える。


その部屋へ行く前にクローゼットの扉を閉めドレスを元の位置に直す、その部屋へ入って直ぐの左脇のレバーを引くと隣への扉が閉まった。


「遅かったな」


アルシェリーナの一連の動作が終わるとミナリーゼの膝に座るルーカスから声がかかった。


「ルーカス様!またお母様のお膝を強請ったのですか?私の膝が来るまで待てませんか!?」


「お前の膝は少々硬い、リーゼ殿の膝が丁度良い」


ルーカスの言葉にアルシェリーナは「くぅ~」とハンカチを噛む。

その様子を見て対面に座るトゥールが貴族とは思えないほどゲラゲラと笑っている。


「トゥール様、それは⋯お下品ですわ!」


腹を抱えて笑っていたトゥールは涙目を拭いながら「失礼しました」と全然思ってもいない謝罪をしながら⋯悔しい、まだ目が笑ってる。


「シェリーおかえりなさい。《《今日も》》遅かったわね」


「お母様、只今戻りました。そうなの、《《今日も》》執拗くて」


「段々と赤ら様になっていますね」


はぁ~と大きな溜め息と共にアルシェリーナが言うと、先程まで爆笑していたトゥールが少し警戒したように言った。

その言葉に軽く頷きながら許しも得ずにサッサと母の隣にアルシェリーナは腰掛けた。


そのままミナリーゼの膝に鎮座しているルーカスの頭を撫でる。


「あぁ癒やされるぅ」


最近はアルシェリーナの方こそ赤ら様だった。


「シェリーも帰ってきたことですし私はそろそろ失礼しますわ、ルーカス様ごめん遊ばせ」


ミナリーゼがルーカスを膝から降ろし立ち上がりながら言うとルーカスは残念そうにミナリーゼを見上げて「⋯またなリーゼ」と言って俯いた。

その様を見てミナリーゼはアルシェリーナと同じ様に頭を撫でて


「殿下何時でもお越しください。待っております」


そう声をかけてアルシェリーナと逆パターンで部屋を後にした。

全身で“ガッカリ”を表現するルーカスにアルシェリーナは「殿下どうぞ」と自分の膝を叩いた。

ルーカスはアルシェリーナを見て顔を真っ赤にしながら靴を脱ぎソファに寝転びながらその膝に頭を載せた。


トゥールはその姿を微笑ましそうに見ながらアルシェリーナの為にお茶を用意する、序に自分のお代わりも忘れない。


「今日は⋯ここで、過ごしたい」


「殿下それはなりません」


「⋯⋯ア、アルシェリーナが来なければ良いのだろう」


「殿下、来なければではなく来れませんわ。まだ婚姻前ですから大人のルーカス様と会うのは夜会の時だけですもの。それも私が成人してからでしてよ」


一日二時間だけの《《本当の》》姿をルーカスは主に夜利用している。

それは18歳になったルーカスが夜会に出たりする為に、今は利用しているのだ。

婚約前にデビュタントを済ませていたアルシェリーナだったが、未だ夜会にはそれっきり出席はしていない。


何れは二人揃って夜会に出なければならないのと、婚姻後の閨の為にその時間に設定していた。

妖精達の話では歴代の愛子(めでご)達もそうしていたと教えてくれたからだ。


「一度聞きたいと思っていたのだが⋯」


膝からアルシェリーナを見上げているルーカスが質問してきた。


「何でしょうルーカス様」


「お前は私のこの姿を見ても最初から怖がらなかったし、嫌がらなかった。婚約者がこんな姿で、その⋯気持ち悪くないのか?ガッカリもしていなかったが⋯本当の所はどうなんだ?」


初対面の時のアルシェリーナはショタルーカスに目を輝かせいきなり抱きついて来たのにも関わらず、ルーカスは未だアルシェリーナの真意を図りかねていた為、今日は思い切ってその胸の内を聞いてみようと思い立った。


「そうですねぇ、吃驚はしましたけど⋯。ルーカス様、私には親友のセリナ・タイオールという者がおりますの」


質問から反れたようなその言葉にルーカスが目を丸くしていると、そんな事はお構いなしにアルシェリーナは続ける。


「彼女曰く“可愛いは正義”なのだそうです。長年聞かされていましたが私にはその言葉は全く響かなかったのですけど、ルーカス様と初めて御目文字頂いた時、唐突にそれを理解しましたの。ルーカス様、理屈ではないのです。だって可愛いは正義なのですから」


ニッコリと下を見てアルシェリーナはルーカスに語りかけた。

そんなアルシェリーナを見てフッとルーカスは微笑んで何かを思い出す様にトゥールへと顔を向けた。

そんなルーカスの仕草を見てトゥールも微笑み返す。


「アルシェリーナ様は父と同じ事を言いますね⋯とても懐かしい気持ちになりました」


「⋯ラガン伯爵ですか?」


アルシェリーナの問いにトゥールは首を左右にユックリと振って少しだけ寂しそうに言った。


「いいえ、私の《《本当の父》》です、今のラガン伯爵は父の従弟なのですよ」


アルシェリーナの知らぬ系譜だった。





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