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第4話 目立たないはずが、奇跡と呼ばれた

ご覧いただきありがとうございます。

今回は、フィオナが王立騎士学校の生活も一週間と慣れた頃のお話です。

こんな時こそ〝モブ計画〟に綻びが生じたりするんですよね!?

 入学から一週間が経過し、フィオナも少しずつ王立騎士学校での生活に馴染んでいた。

 春の柔らかな日差しが校舎の石壁を優しく照らす朝、フィオナはルームメイトのリリィと並んで寮から学舎へと向かっていた。桜に似た淡い花が通学路の両脇に咲き誇り、その花びらが風に乗って舞い落ちる光景は、まるで新入生たちを歓迎しているかのようだった。


(一週間、完璧なモブ生活。このまま誰にも気づかれずに……)


 フィオナは密かに自分の「成果」に満足していた。意識的に声のトーンを低く、視線を落とし、廊下では壁際を歩く。授業中も極力発言せず、ノートをとる時も目立たないように。こうやって地味に振る舞うのもすっかりフィオナの日課になっていた。


「ねぇ、フィオナ。今日の放課後、一緒に街へ行かない?」


 並んで歩くリリィがフィオナを誘った。彼女の赤い髪が朝日に照らされ、より鮮やかに輝いている。リリィの明るい性格は彼女の外見にも表れていた。


「ごめんなさい……課題が……」


 フィオナは悪いとは思いながらも、やや事務的に答えた。実際には課題はそれほど溜まっていなかったが、目立たないようにするには人目につく場所は避けるべきだと思っていた。


(目立たないためには、社交的なリリィとの距離を保たなきゃ……でも、リリィは悪い子じゃないし……)


 とはいえ、一方的なリリィのおしゃべりに付き合う中で、フィオナなりにリリィとの友情に深まりを感じていた。彼女の明るさは時に眩しく感じることもあったが、心の底では温かみを感じていた。


「そう、残念」


 リリィはさらっと答えたが、その表情には少しの失望が見えた。

 しかし、すぐに明るい笑顔に戻る。それがリリィという少女だった。


「フィオナはすごく勉強熱心だよね。おはよう!」


 後ろから近づいてきたマークが少し皮肉交じりに話しかけてきた。彼は茶色い髪を無造作に梳かし、制服の襟元が少しだけ乱れている、いかにも飾り気のない少年だった。


「まぁ、勉強熱心なことは悪いことじゃないわ」


 リリィがマークに反論してくれた。彼女はいつも自然とフィオナの味方になってくれる。


「ごめん、ごめん。オレには真似できないことだから……」


 マークが素直にフィオナに謝罪した。その表情には悪意はなく、むしろ率直な羨望のようなものが感じられた。


「大丈夫よ。マークに悪気がないことはわかってるから」


 フィオナは笑顔でマークに答えた。彼の単純な性格は、複雑な思惑に囲まれていた前世と比べると、とても清々しく感じられた。


「じゃあ、またお昼休みに!」


 三人は校舎の入り口に着き、魔法科のリリィとは別れ、フィオナとマークは一般科の教室へと向かった。廊下では既に多くの生徒たちが行き交い、新学期の活気に満ちていた。


  ◇


 王立騎士学校の野外訓練場では基礎体術の授業が行われていた。

 青空が広がる春の午後、訓練場には新緑の香りが漂っていた。周囲には低い石垣が巡らされ、中央には柔らかな砂が敷き詰められている。生徒たちは軽装に着替え、基本動作の練習に励んでいた。


 前世の魔王軍との死闘を思い起こさせる戦闘系の授業は今一つ好きになれないフィオナだったが、かといってずっと座学が続くのも窮屈に思っていたので、今日のようなうららかな陽気の中での実技は気分転換にもなっていた。


「基本動作だ。だが、力の入れすぎは禁物だ」


 フィオナののんきな気持ちとは裏腹に、エリク教官の厳しい指導に生徒たちは緊張感を漂わせていた。教官は生徒たちの間を歩きながら、一人一人の動きを鋭く観察している。


 銀髪の隻眼騎士であるエリク教官は、その威厳ある姿で新入生たちに強い印象を与えていた。訓練用の軽装姿でも騎士としての風格は失われず、その鍛え抜かれた体躯からは長年の経験が滲み出ていた。


「オレ、これだけは得意なんだ!」


 自信ありげな表情でマークが意気込む様子がフィオナにも伝わってきた。彼は体を動かすことが好きなタイプで、座学より実技のほうが得意なようだった。

 しかし、その自信は少し危うい匂いがした。


(もうまったく、こういう時こそ力を抜かないと駄目なのに……まるで新兵みたいね)


 マークのいいところを見せようと力む姿が心配になってしまうフィオナだった。前世の記憶の中には、意気込みすぎて戦場で命を落とした若い剣士たちの姿があった。


「マーク・スレイン、前へ」


 エリク教官がマークを呼び出した。マークは少し緊張した様子ながらも、自信に満ちた表情で教官の前に立った。


「マーク、私が魔力を込めて投げを打つので、うまく受け流すように」


「はい!」


 マークは力強く返事をした。その声には若さゆえの過信が混じっていた。


 エリク教官との模擬戦にマークが挑んだ。教官は片手を前に出し、そこから淡い青白い光を放った。それは純粋な魔力の塊で、直撃すれば軽傷でも済まない威力を持っていた。


 マークはエリク教官が打ち込む魔力をうまく受け流しつつ、間合いを詰めていた。彼の動きは素早く、基本に忠実だった。


「いいぞ、その調子だ。だが、決して魔力を受けようと思うな。あっというまに吹き飛ばされるぞ!」


「はい!」


 マークはそう答えて、さらに攻撃を受け流していった。彼の動きに周囲の生徒たちから歓声が上がる。その声に気を良くしたのだろうか、マークの動きが少し大胆になった。


 だが、過信して油断したのか、エリク教官が放った魔力弾を、マークが正面で受け止めてしまった。


「うわぁー!」


 ほんの一瞬の出来事だった。マークのがっしりした体が風に舞う木の葉のように舞い上がり、訓練場の内壁に激しく激突した。しかも悪いことにマークはまったく受け身の姿勢をとっておらず、頭から壁に激突していた。


 衝撃で砂埃が舞い上がり、生徒たちの悲鳴と共に、激突の鈍い音が場内に響いた。埃が落ち着いた時には、マークは壁の下に倒れ込み、動かなくなっていた。


 沈み込んだマークの体の周りには赤い血だまりが広がり始めていた。頭部からの出血は、遠くからでも鮮明に見えるほど鮮やかで不吉な色をしていた。


「救護班を呼べ! 緊急だ!」


 エリク教官が慌てて指示を出す。彼の声には普段聞かれない動揺が含まれていた。


「あれ、絶対やばいよ」

「死んじゃうんじゃない?」

「あんな出血量……」


 あまりの出来事に呆然とする生徒、泣き出す生徒に混じって、ひそひそと話す声が聞こえる。恐怖と興奮が入り混じった声だった。


(まずい、出血が多すぎる。このままでは……)


 フィオナも慌てた。魔力弾の威力と壁への衝突、そしてあの出血量を考えると、救護班が到着する前に最悪の事態になる可能性もあった。


 しかし、前世で幾度もの修羅場を経験していたフィオナはすぐに冷静さを取り戻し、周囲の混乱に紛れてマークのもとに駆け寄った。


「ううぅ……」


 マークはかろうじて意識があるようだったが、激痛でうめくのがやっとの状況だった。彼の顔は蒼白で、額からは大量の血が流れ、左腕も不自然な角度に曲がっていた。


「大丈夫……すぐに良くなるから……」


 フィオナはマークに優しく声をかけた。

 しかし、彼女の内心はその言葉とは真逆の状態だった。


(このままでは命が危ない……でも、力を使えば正体がバレる……でも……)


 フィオナの中で葛藤が生まれた。「隠れる」という決意と、「助けたい」という本能が激しくぶつかり合う。

 フィオナは静かに目を閉じ、大きく息を吸うと、ごく小さな声で「もうこの方法しかないですね」と自分に言い聞かせるように呟いた。

 フィオナは目を開き、周囲に誰も近づいていないことを確認すると、静かに小声で詠唱を始めた。彼女の手から温かな光が漏れ出してきた。それは太陽の光のように柔らかく、生命の息吹を感じさせる光だった。


 周囲から見えないように体で隠しながら、フィオナがマークの体にそっと手を触れると、温かな光がマークの傷を包み込んだ。それは瞬く間に広がり、開いた傷口が閉じ始め、折れた骨が正しい位置に戻っていく。


 フィオナの手から放たれる光は、かつて疫病に苦しむ村人たちを救った癒しの聖女セリアの力そのものだった。

 しかし、今のフィオナは力を最小限に抑え、目立たないよう細心の注意を払っていた。


「ううぅ……あ、あれ……? 痛みが……」


 激痛で目を強く閉じていたマークが目を見開いて驚いた。

 一瞬前まで感じていた激痛が嘘のように消え、体が軽くなる感覚に戸惑いを覚える。


「もう大丈夫よ」


 フィオナは優しく微笑んでいた。彼女の青い瞳には安堵の色が浮かんでいる。

 そこに救護班が駆けつけてきた。白い制服を着た医療係の学生と、担架を持つ補助員たちだ。


「君、大丈夫か?」


 医療係の上級生が、マークの状態を素早く確認する。


「はい、なんとか」


 マークが上半身を起こしながら、答えた。彼の顔色は既に戻り、額の傷も浅い擦り傷ほどになっていた。


「うん、かすり傷だ。ただ、念のためこのまま担架で救護室に向かうよ」


 医療係の学生は、当初報告されていた重傷の状態と目の前の軽傷の少年のギャップに少し戸惑いながらも、迅速に対応した。


「あ、ありがとうございます」


 マークはバツが悪そうに答えた。彼自身も自分の状態の急激な改善に驚いていたが、その理由を理解することはできなかった。

 

 遠巻きになっていた生徒たちがひそひそ話している。


「えぇ、さっきまで血だまりができてたよね?」

「それに手足が変な方向に曲がってたぞ!」

「奇跡的だわ……」


 授業の残り時間はわずかだったこともあり、エリク教官は混乱する生徒たちへの対応に追われながらも、冷静に指示を出した。


「授業はここまでとする。ほかのクラスは授業中なので、各自教室に戻って自習するように!」


 生徒たちは興奮した様子で三々五々と教室へ向かい始めた。騒ぎがおさまりつつある中、フィオナはひそかに訓練場を脱出した。誰にも気づかれないように、人目を避けながら校舎の影に沿って移動する。


(うわぁ、やっちゃった……でも、あのままでは本当に危なかった……)


 負傷したマークを見て、反射的に治癒魔法を使ってしまったことをフィオナは反省した。

 しかし同時に、友人を救えたことに対する安堵の気持ちも感じていた。

 今回の判断に対して、嫌な感じはしなかった。

 むしろ、久しぶりに聖女としての力を使ったことで、心の中に何か温かいものが広がっているのを感じた。


  ◇


 王立騎士学校の大食堂はいつもの賑やかさだったが、今日はそれに加えて屋外訓練場でマークの身に起きた「奇跡の回復」の噂で持ちきりだった。

 高い天井から吊るされたシャンデリアの下、長テーブルに並んだ生徒たちの間では、午後の授業の出来事が次々と伝言ゲームのように広がっていった。それぞれの話者によって、少しずつ脚色され、膨らんでいく噂。


「あれって普通じゃないよね? あんな怪我が一瞬で……」

「聞いたところによると、頭蓋骨が砕けてたらしいよ」

「聖女の癒やしの力じゃないかって噂もあるらしいよ」

「伝説の大聖女の……?」

「え!? あれっておとぎ話なんだと思ってた」


 食堂の喧騒に混じってあちこちで交わされる生徒たちの囁きに、フィオナは心穏やかではなかった。彼女はできるだけ食事に集中しようとしていたが、耳に入ってくる「聖女」という言葉に、箸を持つ手がわずかに震えた。


「大丈夫? 顔色悪いよ」


 心配そうにフィオナの顔をのぞき込んでリリィが尋ねた。彼女の緑の瞳には純粋な心配の色が浮かんでいた。


「だ、大丈夫よ……」


 フィオナが聞こえてくる噂に内心動揺しながらも、なんとか答えた。食事は喉を通らない状態だったが、それを悟られないようにスープを少しずつ口に運ぶ。


「それにしてもマークは大変だったわね。死んじゃったんじゃないかと思った生徒もいたらしいね」


 魔法科の授業中でその場にいなかったリリィが興味津々に尋ねた。彼女の声には好奇心と共に、友人への心配の気持ちも含まれていた。


「う、うん、大きな音がしたのでびっくりしたけど、大したことなかったみたい」


 フィオナは平静を装いながら答えた。

 しかし、思い出すだけでも恐ろしいマークの傷の状況を「大したことなかった」と言うのは、明らかな嘘だった。


「でも、すぐにマークの側に駆けつけるなんて、フィオナは勇気あるわね」


 感心した顔でリリィが言った。


「た、ただの偶然よ……それに怪我は見た目ほどじゃなかったの」


 フィオナは視線を逸らしながら答えた。


「それでも偉いわよ。私なら怖くて近づけなかったかも」


 リリィは素直にフィオナを褒めた。


「わ、私はマークに触れて声をかけただけだから……」


(お願い、これ以上詮索されるとボロが出ちゃう)


 フィオナは好奇心旺盛なリリィの質問攻めと格闘しながら、前世で死闘を繰り広げた魔王よりリリィの好奇心の方が手強いんじゃないかとさえ思う始末だった。


「まぁ、とにかくフィオナと大の仲良しのマークが無事で良かったわ」


 リリィは「何も言わなくてもわかっているわよ」というような意味深な視線をフィオナに向けた。そこには単なるからかいを超えた、何か深い理解を示す色があった。


「え!? そんなんじゃないって……」


 リリィがマークとの関係を何か勘違いしているように感じたが、フィオナは藁にも掴む思いで全力で乗っかかろうと思った。もし恋愛関係と誤解されるのなら、それは「力を使った」という真実よりずっといい言い訳になる。


「そうね、そうよね」


 リリィはうんうんと頷きながら微笑んだ。

 しかし、その眼差しには「本当のことを知りたい」という思いも隠されていた。

 フィオナの想いが天に届いたのか、ボロが出ないように俯くフィオナの姿は、端から見ると恥ずかしくて俯いたようにしか見えなかった。


「う、う……」


 唸りながらも内心ホッとするフィオナだったが、上級生テーブルからレオンの鋭い視線が向いていたことに気づくことはなかった。彼の灰色の瞳は、まるで何かを見抜こうとするかのように、フィオナの一挙手一投足を観察していた。


  ◇


 王立騎士学校の教官室でエリク教官とマルレイン教官が向かい合っていた。

 窓からは夕陽が差し込み、室内を淡いオレンジ色に染めている。両教官の間には深い沈黙があり、それぞれが自分の考えを整理しているようだった。


「あの瞬間、かすかな光が見えた気がする……」


 神妙な顔をしたエリクが呟いた。彼の隻眼には確信と疑念が交錯していた。


「君は他の生徒の対応でハッキリと見てなかったんだろう?」


 マルレインが冷静に答えた。彼女は金髪のロングヘアを束ね、知的な印象を与える眼鏡をかけていた。学識豊かな様子から、座学担当の教官であることが伺える。


「それはそうだが……ただの偶然とは思えない回復の速さだった」


 エリクは窓の外を見つめながら言った。


「聖女の治癒は300年前から使われた記録はない。もし本当なら……」


 マルレインは古書を開きながら答えた。彼女の表情には学者としての冷静さと、同時に何か大きな発見に対する期待も見え隠れした。


「しかし、Eランクの魔力で、そんな高位の治癒魔法は……」


 エリクは自らの疑念を否定するように首を振った。魔力量Eランクの生徒が、上級魔法士でさえ扱いが難しい高位治癒魔法を使えるというのは、常識的には考えられない。


「高位の魔法士の中には、自らの力を隠せる者もいる。過去には、身を守るために隠蔽した者がいた記録も……」


 マルレインは歴史書の一節を指さしながら言った。彼女の声には確信に近いものがあった。

 エリクとマルレインの言葉は、疑念を肯定しつつ、自ら否定する、またその逆をするものだった。王立騎士学校の知識も経験も豊富な教官たちでさえ、屋外訓練場で起こった出来事の説明が付けられないものであったことを象徴するようなやり取りだった。


「しばらく様子を見よう。もし本当に彼女が何か特別な力を持っているのなら……」


 エリクは言葉を途中で切った。その表情からは、発見への期待と同時に、何か危険なものに対する警戒も読み取れた。


「ええ、そうね。急ぐべきではないわ」


 マルレインも同意した。二人は窓の外の黄昏を、それぞれの思いを胸に見つめていた。


  ◇


 放課後の王立騎士学校の図書館にフィオナは独りでいた。いつも一緒にいることが多いルームメイトのリリィは他の生徒たちと街に出かけていた。

 静かな図書館は窓から差し込む夕暮れの光にいつも以上に幻想的な雰囲気を漂わせていた。高い本棚が並ぶ広い空間に、ほとんど人の気配はなく、時折ページをめくる音だけが静寂を破る。


 フィオナは「治癒魔法」関連の本が配架された棚に手を伸ばしていた。今日のような出来事に遭遇したときに、どうしたら目立つことなく治癒魔法を行使することができるか、今後の対策を練るためだった。


 彼女は『高位治癒術の原理と実践』という分厚い本を手に取り、近くの閲覧机に座った。教科書には載っていない高度な内容だが、もし誰かに見られても「興味があって」と言い訳ができる程度のものを選んだ。


「その本、治癒魔法の本だね?」


 ふいに後ろから声をかけられた。低くて落ち着いた、しかし若さも感じられる男性の声だ。


 フィオナが振り返ると、偶然を装った上級生のレオンが笑顔で立っていた。彼の黒髪と灰色の瞳は、夕暮れの光の中で神秘的な印象を与えた。上級科の制服の銀の刺繍が、彼の立場の高さを物語る。


「た、ただの……趣味です」


 突然のことに動揺しながらフィオナは答えた。彼女の声には微かな震えがあった。


「僕はレオン・アーヴィス。君は……リース男爵家の令嬢、フィオナだよね?」


 レオンの声は穏やかだったが、その眼差しには鋭い観察力が宿っていた。彼はフィオナの反応を細かく見逃さないようにしている。


「どうして私のことを……?」


 驚きを隠しつつ、フィオナは尋ねた。彼女は本を閉じ、少し体を引いた。


「綺麗な銀髪に青い瞳の新入生が入ったって上級生の中でも噂だよ」


 レオンは微笑みながら答えた。彼の態度には礼儀正しさがあり、威圧感はない。

 しかし、その目には何かを探るような光があった。


(え! 目立たないようにしているのに……うまくいってないの?)


 フィオナは内心焦った。これまでの努力が水の泡になったと思うと、胸が締め付けられる思いだった。


「それに、以前、君とどこかで会ったことがあるような……」


 首を傾げながらレオンが言った。彼の額に浮かぶ小さなシワは、本気で記憶を探っている証拠だった。

 その瞬間、フィオナの中で警鐘が鳴り響いた。前世の記憶に関わる何かを、このレオンという少年が感じ取っているのではないか――その可能性が彼女の背筋を凍らせた。


(まずい、この人は危険だ!)

「わ、私、この後お友だちとの約束が……」


 少し無理があるとは思ったが、フィオナはレオンとの会話を強引に断ち切って図書館を後にした。彼女は急ぎ足で本を棚に戻し、バッグを手に取ると、軽く会釈をしてレオンの横を通り過ぎた。


 彼女の靴音が図書館の静寂を破りながら遠ざかっていく。その後ろ姿をレオンの視線がしっかり追いかけていたことは言うまでもなかった。彼の表情には好奇心と、何か懐かしいものを見る時のような温かみが混ざっていた。


「まるで……あの時の」


 レオンはかすかに呟いた。その言葉の意味を知る者は、まだ誰もいなかった。

お付き合いありがとうございました。

フィオナの“モブ計画”、相当ピンチになってるような気がするんですが……。

果たしてうまくいく日は来るのでしょうか?

次回もお楽しみに!

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