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第19話 闇を祓うのは、想いの光

ご覧いただきありがとうございます。

今回はいよいよ魔族との決戦のお話です。

 洞窟から儀式場へ向かう道を進むフィオナ、レオン、カイル、リリィの四人。


 夜明けの薄明るい光が瘴気の合間から差し込み、最後の戦いを前にした緊張感と覚悟に満ちた雰囲気が一行を包んでいた。誰もが黙々と歩きながら、それぞれの武器や魔法の確認を行っている。


「みんな……」


 フィオナが立ち止まり、振り返った。彼女の青い瞳には、仲間たちへの深い愛情と、守り抜くという決意が宿っている。


「私の力を、みんなに分け与えます」


 そう言うと、フィオナは両手から温かい光を放った。聖女の祝福が仲間たち一人一人を包み込み、体の奥から力が湧き上がってくるのを感じた。


「暖かい……傷が癒えていく」


 カイルが感嘆の声を上げた。包帯の下の傷が、みるみる回復していく。


「魔力が満ちてくる感じ……」


 リリィも興奮気味に言った。昨日使い果たしかけていた魔力が、清らかな泉から水が湧き出るように回復していく。


 レオンは無言で剣の柄を握り直した。彼の灰色の瞳には、フィオナを最後まで守り抜くという静かな覚悟が宿っている。


「さあ、行こう」


 レオンが装備を確認しながら決意の表情で言った。


「最後の戦いだ」


 四人が頷き、朝日に向かって歩む後ろ姿は、希望の象徴のように美しかった。もう、誰も一人ではない。共に戦い、共に勝利を掴む仲間がいる。


 フィオナたちが瘴気の谷の儀式場にたどり着いた時、そこには想像を絶する光景が広がっていた。


 古代の遺跡と複雑な魔法陣が融合した不気味な儀式場。石造りの円形劇場のような構造の中央に、巨大な魔王の封印石が荘厳な存在感を放っている。封印石の周りには黒い魔力で描かれた魔法陣が脈動し、空間全体に濃密な瘴気が渦巻いていた。


「よく来たな、聖女よ」


 儀式の中央で、ヴェリオが優雅かつ冷酷な所作で振り返った。


「300年ぶりの再会だ、セリア……いや、今はフィオナと名乗っているのだったな」


 白髪を風になびかせたヴェリオの赤い瞳には、深い憎悪と歪んだ喜びが宿っている。彼の周りに漂う瘴気は、憎しみそのものが実体化したかのような不気味さを醸し出していた。


「ヴェリオ……」


 フィオナが聖女の光を纏いながら、悲しげに尋ねた。


「あなたはまだ、憎しみを手放せないの? 300年もの間、ずっと……」


「手放す?」


 ヴェリオが狂気的な笑みを浮かべた。


「笑わせるな。私の全ては憎しみそのものだ。それ以外に存在する意味などない」


 濃密な瘴気が儀式場全体に広がり、フィオナの光と激しく対立している。光と闇、愛と憎しみが、この場で最後の決着をつけようとしていた。


「何を企んでいるんだ?」


 レオンが剣の柄に手をかけながら叫んだ。


「この儀式は一体……」

「魔王様の復活の儀式だ」


 ヴェリオが余裕と確信に満ちた態度で答えた。


「必要なのは強力な魔力と……そして聖女の血」


 儀式が進むにつれて、空間の様子が徐々に変化していく。封印石から立ち上る黒い靄が濃くなり、魔法陣の光がより激しく明滅している。


「そんなことさせないわ」


 フィオナが毅然として反論した。


「選択肢はない」


 ヴェリオが不気味に微笑んだ。


「お前が来るのを待っていたのだ。前回のように聖女の自己犠牲では、今度は勝てはしない。私は学んだのだ」


 フィオナに既視感と警戒感が走った。前世の記憶が蘇りかけ、300年前の絶望的な戦いを思い出しそうになる。


 レオンたちは緊張感を高め、戦闘準備の姿勢を取った。


「この虫けらが……!」


 ヴェリオが瘴気の波を一斉に放った。黒い津波のような瘴気が、四人に向かって押し寄せる。


「フィオナを守れ!」


 レオンが剣で瘴気の波を切り裂いた。聖女の祝福を受けた剣が銀色に輝き、闇を断ち切っていく。


「この程度で俺たちは倒れない!」


 カイルが叫びながら、華麗な剣技でヴェリオに斬りかかった。しかし、ヴェリオの魔力は想像以上に強大で、簡単には近づくことができない。


「光よ、闇を祓いたまえ!」


 フィオナから純白の光が溢れ出し、瘴気を浄化していく。しかし、ヴェリオの圧倒的な魔力と瘴気操作は、彼女一人では対抗しきれないほど強力だった。


 リリィも補助魔法の防御壁を形成してサポートする。光の盾が仲間たちを包み、ヴェリオの攻撃から守っていた。


 しかし、徐々に押され始める四人。ヴェリオの力は300年の時を経て、さらに強大になっていた。


 激しい戦闘の最中、フィオナの意識の中に前世の記憶が鮮明に流れ込んできた。


 300年前の決戦の記憶がフラッシュバックする。


「聖女様……お逃げください……」


 若い騎士が、血を流しながらそう言って倒れ込む。


「もう誰も犠牲にはしません……」


 孤独な戦いを強いられた大聖女セリアの記憶。仲間を全て失い、一人で魔王と対峙した絶望的な状況。


「この命と魂を代価に……永遠の封印を……」


 セリアが自らの魂を込めた封印魔法を放つ瞬間の記憶。命を懸けた、最後の希望を託した魔法だった。


「呪うぞ……必ず復讐する……」


 封印される魔王とその側近ヴェリオの叫び声がこだました。憎悪に満ちた声が、300年の時を経て現実となったのだ。


 前世の記憶から覚めたフィオナの目に、儀式場の混乱が映った。


 レオンとカイルは負傷しながらも、それでも諦めずに戦い続けている。二人の表情には、最後まで戦い抜く覚悟の色が見えた。


「まだだ……諦めるな!」


 レオンの腕から血が流れているが、彼は剣を握る手を緩めない。


「くそっ……もう腕が上がらない……」


 カイルが呟いたが、それでも立ち上がろうとする意志を見せている。


 ヴェリオの儀式が完成に近づくとともに、瘴気の力はさらに強まっていく。フィオナたちが追い詰められていく。


「もう……魔力が……」


 リリィが息を切らしながら言った。友のために奮闘していた彼女も、魔力の限界を感じていた。


「無駄な抵抗だ」


 ヴェリオが冷酷に言った。


「もう儀式は完成に近い。お前たちの運命は決まったのだ」

「これで終わりだ!」


 ヴェリオが今までで最強の瘴気攻撃を放った。黒い光線が、まっすぐフィオナに向かって飛んでくる。


「フィオナ!」


 レオンが躊躇なく身を投げ出し、フィオナを庇った。


「レオン!」


 フィオナの悲痛な叫びが響く。ヴェリオの攻撃が無情にもレオンを貫いた。

 フィオナの心に、決定的な怒りが生じた。大切な人を失う絶望と、それを引き起こした憎しみへの怒りが、彼女の中で渦巻いている。


「今こそ……真の力を……」


 フィオナの心の奥で、光の精霊セラスの声が聞こえた。


「私は二度と……大切な人を失わない!」


 フィオナからかつてない眩い光が放たれた。それは前世のセリアが放った光とは質の異なる、愛に満ちた温かい光だった。


「前世の記憶と力を解放します……」


 セラスの声と共に、フィオナの光が一段と輝いた。


「前世では命を代価にした……でも今度は違う!」


 フィオナの声には、前世の轍を踏まない強い決意が込められていた。


 時を巻き戻すように、儀式の効果が弱まっていく。驚愕するヴェリオの顔に、初めて恐怖の表情が浮かんだ。


「私の命ではなく、私の想いが、この闇を祓う!」


 フィオナの声が儀式場全体に響き渡った。


 儀式場全体に、前世とは異なる封印魔法の詠唱と魔法陣が広がっていく。


「闇を祓う光よ、我が想いと共に……」


 命を捧げる代わりに、フィオナの強い想いが込められていく。彼女の表情には、聖女でありながら一人の少女としての決意が浮かんでいた。


「一人じゃ……ない……」


 倒れたレオンが、必死にフィオナに手を伸ばした。


「私たちの力も……使って……」


 リリィとカイルも、残った力を振り絞って叫んだ。


「みんなの想いと共に……永遠の封印を!」


 フィオナは仲間たちの残された力による支援とともに、全ての想いを込めた。


 前世とは異なる、新しい封印魔法が完成しようとしていた。


「なぜだ……前回とは違う……この光は……」


 ヴェリオが苦悩に満ちた表情で言った。フィオナの光は、彼の憎悪さえも包み込むような温かさを持っていた。


「憎しみを手放して……」


 フィオナが慈愛に満ちた声で言った。


「安らかに眠りなさい、ヴェリオ」


 ヴェリオの憎悪が光に包まれていく。消え去るのではなく、浄化されていく過程だった。長い間凍りついていた彼の心が、ようやく解放される時が来たのだ。


「あなたは……本当に……彼女なのか……」


 ヴェリオの表情が、初めて穏やかに見えた。300年間抱き続けた憎悪が、ついに癒されようとしている。


「さようなら、ヴェリオ……」


 フィオナが優しく微笑んだ。


「今度こそ、安らかに……」


 魔王の封印石は、より完全な封印に変わり、安定していく。そして谷全体を覆っていた瘴気が、ゆっくりと晴れていった。


 瘴気が消え、儀式場に朝の光が差し込んできた。


 300年続いた憎悪の連鎖が、ついに断ち切られた瞬間だった。


「終わったの……?」


 力を使い果たし、倒れ込むフィオナが小さく尋ねた。


「ああ、勝ったんだ……」


 負傷しながらもレオンが、フィオナを支えながら答えた。彼の声には、安堵と誇らしさが込められている。


「生きてる……みんな生きてる……」


 リリィが涙ぐんで叫んだ。前世とは違い、今回は誰も犠牲になることなく勝利を得ることができたのだ。


「やったな、聖女様……いや、フィオナ」


 カイルが疲れ切った表情ながらも、心からの笑顔で言った。


 互いの無事を確認し合い、安堵の表情を浮かべるフィオナたち。長い戦いが終わり、新たな時代の始まりを感じさせる平和な光が、四人を包んでいた。


 フィオナは前世の記憶を受け入れながらも、それに縛られない新しい道を選んだ。命を懸けるのではなく、愛する人たちと共に生きる道を。


 想いの光が闇を祓った時、本当の意味での聖女が誕生したのだった。みんなと共に歩む、自由な聖女が。

お付き合いありがとうございました。

再び魔族の封印に成功しましたね。

しかも今回は聖女の犠牲を伴わずに……。

次回もお楽しみに!

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