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第18話 瘴気の谷、決戦の地へ

ご覧いただきありがとうございます。

今回はいよいよ聖女フィオナたちが決戦の地へ向かうお話です。

 王都西門の重厚な石造りの門の前で、瘴気の谷に向かう最後の準備が整えられていた。

 朝の光が差し込む中、門の外装に刻まれた王国の紋章が威厳を放っている。しかし、その向こうに見える空には不吉な黒雲が広がり、出撃前の厳かな雰囲気をさらに重いものにしていた。


「目的地は瘴気の谷だ」


 エリアス騎士団副団長が、集まった精鋭たちを見回しながら作戦を伝えた。


「敵の正体は不明だが、危険度は最高レベルと想定する。全員、命を懸けた戦いになることを覚悟せよ」


 王国騎士団の面々とレオン、カイルを中心とした学生騎士団の表情には、それぞれ決意と覚悟が溢れている。誰もが今回の戦いの重要性を理解していた。


「フィオナは中央に位置してくれ! 俺たちが守る」


 レオンがフィオナに向かって告げた。


「君の力が最後の切り札だ。無茶はしないでくれ」


「私も行くわ」


 王立騎士学校から合流したリリィが元気よく声を上げた。


「支援魔法で役に立つから。フィオナ一人に背負わせるなんて、絶対にさせない」


 フィオナは仲間たちの顔を見回し、胸が熱くなるのを感じた。


「みんな……ありがとう」


 彼女は決意を込めた表情で言った。


「私はもう一人じゃない。みんなと一緒に戦える」


 王都正門には見送りの市民たちが集まってきていた。期待と不安が入り混じった表情で、彼らの行く末を見守っている。子供たちが小さな手を振り、老人たちが祈るように手をかざしていた。


 空には黒い雲がさらに広がり、不気味な雰囲気を醸し出していた。まるで運命の時が近づいていることを告げているかのように。


  ◇

 

 王都から瘴気の谷への道を進む王立騎士団の一行は、徐々に変わりゆく風景に息を呑んだ。

 つい数日前まで緑豊かだった街道沿いの森は、今や生命力を失った枯れた植物で覆われている。葉は黒く変色し、枝は不自然にねじ曲がっていた。


「この辺りは緑豊かな場所で有名だったのに……」


 カイルが馬上から周囲を見回しながら呟いた。


「瘴気の影響がここまで及んでいるとは」


 進むにつれて、瘴気の濃さが徐々に増していく。空気が重く、呼吸するのも苦しくなってきた。騎士たちの中には咳き込む者も現れ始めている。


「瘴気の影響力は想像以上だ」


 エリアス騎士団副団長が厳しい表情で騎士団に注意を促した。


「急いで源を断たねば、王都全体が飲み込まれてしまう」

「私が道を開きます」


 フィオナがそう言うと、両手から温かい光を放った。聖女の力によって、黒い霧が徐々に浄化されていく。道が明るくなり、騎士たちの呼吸も楽になった。


「無理はするな」


 レオンが心配顔で彼女に近づいた。


「力は決戦の時のために残しておいてくれ」

「大丈夫ですよ」


 フィオナが微笑んで答えた。


「みんなを守るためなら、この程度は何でもありません」


 フィオナが聖女の力で切り開いた進路を、隊列を組んで規律ある動きを見せる騎士団が粛々と進んでいった。彼女の光が道標となり、希望の象徴となっている。


 道中の小さな村にたどり着いた王立騎士団一行は、言葉を失った。

 村は完全に瘴気の影響下にあった。家々の窓は黒く染まり、畑の作物は全て枯れ果てている。最も不気味だったのは、生きていながら意識のない村人たちの姿だった。

 彼らは虚ろな目をして、まるで魂を抜かれたかのようにふらふらと歩き回っている。


「まるで魂を抜かれたようだ……」


 応戦の構えを取った騎士団員が呟いた。


 その時、瘴気の操り人形と化した一部の村人が、突然一行に襲いかかってきた。動きは鈍いものの、痛みを感じないのか、剣で切りつけても止まらない。


「フィオナ、全員を治せる?」


 リリィが魔法で村人たちの動きを止めながら尋ねた。


「この数では完全に治すのは……」


 フィオナが苦悩の表情を浮かべた。


「今の私には難しい。でも軽減くらいは……」


 彼女は聖女の光を広範囲に放った。温かい光に包まれた村人たちの動きが次第に止まり、虚ろだった目に一瞬だけ人間らしい表情が戻った。


「最小限の救助と情報収集のみを行う。長居は危険だ」


 エリアス騎士団副団長が的確に指示した。


 村の中心で、王立騎士団一行は意識を取り戻した村長を見つけた。

 フィオナの聖女の力で一時的に正気に戻った村長は、年老いた体を震わせながら弱々しく話し始めた。


「白髪の男が……儀式を始めると……」


 村長の声はかすれていたが、必死に伝えようとする意志が感じられた。


「儀式?」


 フィオナが膝をついて村長に近づいた。


「どんな儀式ですか?」

「復活……と言っていた」


 村長が断片的に話した。


「魔王の……復活の儀式を……」


 一行に緊張が走った。レオンが眉を寄せて呟く。


「瘴気は魔王復活のためなのか?」


「あなたたちには感謝する」


 村長が警告と感謝を込めて言った。


「しかし……敵は強大で恐ろしい。気をつけて……」


 村長の言葉は途切れ、再び意識を失った。しかし、得られた情報は重大だった。ヴェリオの真の目的が明らかになったのだ。


  ◇

 

 瘴気の谷の境界にたどり着いた王国騎士団一行は、眼下に広がる異界のような風景に言葉を失った。

 谷全体が濃密な黒雲に覆われ、まるで死の淵を覗き込んでいるかのようだった。辺りには入るものを拒むような不気味な障壁が漂い、近づくだけで肌が刺すような痛みを感じる。


「ここからは瘴気が濃すぎる」


 エリアス騎士団副団長が冷静に分析した。


「一般の騎士では身体が持たない。精鋭のみで進むべきだ」


 レオンが提案した。


「フィオナを中心に防御陣形で。彼女の力で道を切り開きながら進む」

「前回は一人で無茶をしたから失敗した」


 カイルが苦い表情で言った。


「今度は全員で戦おう。それが唯一の勝機だ」

「私の聖女の光で道を開きます」


 フィオナが決意を込めて宣言した。


「みんな、ついてきてください。今度こそ、みんなで勝利を掴みましょう」


 フィオナとレオンたちの決意が共有され、選ばれた精鋭たちが最終的な覚悟を固めた。


  ◇

 

 瘴気の谷の中腹を進む王国騎士団の精鋭一行に、無数の魔物たちが襲いかかってきた。

 以前出現したものよりも巨大で強力な魔物の群れが、瘴気の中から次々と現れる。黒い霧から生まれたかのような歪な生命体は、通常の武器では傷つけることすら困難だった。


「陣形を維持しろ!」


 エリアス騎士団副団長が冷静に指揮した。


「散開せず、連携を保て!」


 精鋭騎士団はチームワーク良く戦闘を繰り広げる。一人一人の実力は高いが、それ以上に重要なのは息の合った連携だった。


「カイルは左翼を!」


 レオンも冷静に指示を出した。


「俺は右翼を担当する!」

「任せろ!」


 カイルが答えると、華麗な剣技で次々と魔物を切り裂いていく。包帯を巻いた体に無理をかけているのは明らかだったが、その剣筋に迷いはなかった。

 レオンとカイルの見事な連携により、魔物たちの猛攻を食い止めることができた。


「リリィ、魔法の準備を……光の盾を!」


 フィオナもリリィに防御魔法を指示した。


「任せて!」


 リリィの魔法とフィオナの聖女の力が組み合わさり、強力な防御結界が一行を包んだ。魔物たちの攻撃を弾きながら、着実に谷の奥へと進んでいく。


  ◇

 

 瘴気の谷の中心部には、神秘的で不気味な雰囲気を醸し出す古代の遺跡があった。

 巨大な石碑が並び、その中央には魔王の封印石と思われる最も大きな石が据えられている。石碑の周りには複雑な魔法陣が刻まれ、黒い魔力で不気味に光っていた。


 そこでヴェリオとその手下たちが、儀式の準備を進めていた。

 ヴェリオの優雅かつ冷酷な所作が、儀式の不気味さと異界感を一層際立たせている。白髪を風になびかせながら、彼は古代の呪文を唱えていた。


「準備は整った」


 ヴェリオが満足そうに呟いた。


「あとは聖女の血を……300年前と同じように」

「主よ、彼らが近づいています」


 周辺を警戒していた手下の一人が報告してきた。


「来るがいい」


 ヴェリオが氷のような微笑を浮かべた。


「300年の因縁、今度こそ決着をつけてやろう。今度は聖女を殺し、魔王を完全に復活させる」


 儀式場の周りに立ち込める瘴気が、さらに濃密になっていく。


  ◇

 

 儀式場へ続く最後の道で、ヴェリオの手下である強力な魔族が一行を待ち受けていた。

 人間が到底及ばない魔族の強さと異形の姿に、騎士団は苦戦を強いられた。剣が通らず、魔法も効きにくい。確実に負傷者が増えていく中、エリアスが重大な決断を下した。

「ここは私たちが食い止める」


 エリアス騎士団副団長が部下たちを見回しながら指示した。


「聖女とアーヴィス、お前たちは先へ進め!」

「でも……」


 フィオナが躊躇した。自分が先に進むということは、騎士団への加護がなくなることを意味していた。


「聖女殿、あなたしかヴェリオを止められない」


 エリアスがわかりきっているという表情で答えた。


「行ってください! これは命令です!」


 エリアスの指揮官としての決断と自己犠牲の意図が伝わり、他の騎士たちも頷いた。彼らもまた、この戦いの本当の意味を理解していた。


「副団長……必ず戻ります」


 レオンが敬礼しながら答えた。


「全員で帰還します」


 フィオナたちは最後の決戦を意識し、重い足取りで先へと進んだ。


  ◇

 

 儀式場近くの洞窟で、フィオナ、レオン、カイル、リリィが焚き火を囲んでいた。

 魔族たちとの最終決戦を前にした静かな時間が過ぎていく。洞窟の外では風が唸り、瘴気の気配が濃厚に漂っていた。


「明日が最後の戦いか……」


 カイルが火を見つめながら呟いた。


「長い戦いだったな」

「必ず勝つわ」


 リリィが力強く言った。


「そして全員で帰るの。誰一人欠けることなく」


「前世では……一人で戦った」


 フィオナが前世の記憶に触れつつ、決意を表した。


「でも今は違う。みんながいる。だから今度こそ、勝てる気がする」

「ああ、一人じゃない」


 レオンがフィオナの手を取った。


「俺たちがいる。最後まで一緒に戦う」


 洞窟の焚き火を囲んで、四人の絆がさらに強まっていく。明日の戦いへの不安もあったが、それ以上に仲間への信頼が心を満たしていた。


 交代で仮眠を取る中、夜明け前の静寂の時間に、フィオナとレオンが焚き火の前で二人きりになった。

 空の向こうでは、かすかに東の空が白み始めている。決戦の時が近づいていることを告げるように。


「何があっても、最後まで君を守る」


 レオンが騎士としての誓いと一人の男としての想いを込めて言った。


「それが俺の騎士としての誓いだ」

「ありがとう……」


 フィオナが微笑みながら答えた。


「でも私も、あなたを守りたい。大切な人を失うのは、もう嫌です」

「終わったら……」


 レオンが言いかけて、少し躊躇した。


「君に伝えたいことがある」


「私も……」


 フィオナがそう言って、温かい微笑みを浮かべた。

 二人の絆の深さと信頼関係が、洞窟内を穏やかな雰囲気で彩っていた。


 夜明けと共に、ついに最後の戦いが始まろうとしている。しかし今のフィオナには、恐れよりも希望の方が大きかった。なぜなら、もう一人ではないから。

 共に戦う仲間がいる。支え合える絆がある。そして何より、守りたいものがある。


 瘴気の谷に朝日が差し込み始めた時、聖女と騎士たちの最後の戦いの幕が上がろうとしていた。

お付き合いありがとうございました。

ヴェリオの目的が明らかになりましたね。

まさか聖女の血が狙われていたなんて……。

次回もお楽しみに!

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