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金が落ちてる部屋

作者: 裏側の飛鳥

「あー、ここにもあった」

 十円玉。

 パソコンデスクのコロの隙間に一つ。

 あれから一ヶ月と過ぎたが、いまだにこんな感じで部屋のあちこちで小銭を見つける。

 総額としてはたいしたものでもない。

 新しく買った小さな貯金箱に、先ほどの十円玉の埃を払って丁重に入れた。

 チャリン、音を立ててと重みが増える。

 確かに、そこには重みがあった。

 自分に悪い癖かもしれない。

 どうにも、薄い財布に入れるとかさばるため、小銭はポケットにしまっていた。

 当然、着替えるときに入れっぱなしとはいかない。

 貯金箱の隣には、毎回そのポケットから出した小銭が山になっていた。

 しかし。

 これには、残念ながら重みがない。

 と、思う。

 人の社会にあれば問う価値もなく等価値だろう。

 それ以上の意味はない。

 真新しい貯金箱の冷たい感触を愛おしむように、静かに撫でる。

 時折。

 静かになった夜半に、お金が落ちた音が聞こえる気がするのだ。

 ああ、もう!

 と。

 飛び起きそうになって、我に返る。

 あの音はもう鳴らない。

 つけっぱなしのモニターの明かりが、貯金箱の横の小銭の山を照らしているだけ。

 そうして、自由になった寝返りをうつのだ。


 長い長い欠伸を覚えている。

 いるのを確認するように、足踏みするのを覚えている。

 朝起きたら、ピントが合わないほど眼前にいるのを覚えている。

 痺れるほど重くなった頭で、腕を枕にして寝ているのを覚えている。

 部屋に戻るたびに爪研ぎに飛びついていたのを覚えている。

 夜中になると、デスクに置いた小銭で遊んでいるのを覚えている。

「痛った!こんなとこにも入り込んで──!」

 カーペットに潜り込んでモグラになっているのを覚えている。

 先回りして廊下の角で待ち伏せしているのを覚えている。

 バケツを持ったら自分から入って頭だけ出すのを、覚えている。


 あれから一ヶ月と過ぎた。

 この部屋には、金が落ちている。

 全て拾ってしまうには、まだ惜しい気がした。

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