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第十八話 二人でお茶を(中編)

「……私、こんなことをしちゃいけなかったのかもしれないわ」


 のんびりした沈黙を破ったのは、ベルフラワーの不安げな声だった。

 その声を聞いて、僕は首を傾げていた。一体、今までの会話のどこに、そんな不安になるような話があっただろう。結局、一方的に相手の弱点を聞き出せたというのに。アプリコットティも同じ疑問を抱いたらしく、フウンと不思議そうな声を出した。


「どうして? 楽しかったよ。ほら、蜂蜜ビスケットもお食べよ」


 サクサクとビスケットをかじる音がして、それから深い溜め息が聞こえた。


「あなたって、とっても明るくって、気持ちのいい人だわ。だから私、あなたのことが結構好きになってしまったみたい。あなたが死んでしまったら、私、また泣いてしまうかもしれないわ。クークーの時みたいに……」


 ベルフラワーの言葉に、僕はどきりとした。

 彼女が「規格外」だとロングレッグ氏に知られる危険を考えたら、そんな話はするべきじゃない。仲間の死を悲しんだり、涙を流すのは、人形たちの中ではベルフラワーだけなのだから。けれど僕の心配をよそに、アプリコットティはさらりとその言葉を受け流した。


「それはどうも、ありがとう。存分に泣いてくれていいよ、生き残ったのがあなたならね。あたしも、あなたが死んだら、そうしてみよう」

「……涙を流したことがあるの?」


 キョトンとした声で問い返すベルフラワーに、アプリコットティはフーンと考えるような声を出した。


「悔し涙なら、何度もあるよ。負けず嫌いだから。それ以外で、となると……本心から流したことはないかな。でも、誰かが死ぬと、人間はみんなそうするんだって聞いて、真似をしてみたことはある。気持ちはよく分からなかったけど、目玉が少し洗われて綺麗になったような気がした。あなたも、そういうことじゃないの?」


 そう聞かれて、初めてベルフラワーは自分のうかつさに気がついたようで、慌てた声で彼女の問いを肯定した。


「そうね、そう。そういうことよ」


 そんなベルフラワーを見て、アプリコットティはふっ、と今までよりも小さく笑った。


「あたし、色んなことを、みんなよりちょっと考えすぎるところがあるんだ。だから、そういう悲しみのことも、フリだけじゃなく、理屈として理解できるような気がする」


「何かが不意にいなくなること、消えてしまうこと……でも、あたしはそれが舞闘の中にあるとは思わないよ。人間は五十年とか、百年とか、おじさまみたいに二百年とか生きたりするけれど、それでもやっぱり、いつかはいなくなってしまう。あたしたちはそれがちょっと短いだけなんだ」


「だから、いつか誰かの手で、舞台の上で死ぬことは、あたしにとっては悲しみじゃない。それがあなたやブラックシューレイスみたいに、熱い舞闘のできる相手だったなら、あたしにとって、それは喜びだよ」


 アプリコットティはそう言うと、カタンと椅子を引いて立ち上がった。

 その言葉を聞く限り、彼女もまたベルフラワーと同じように、どこかしら「規格外」のところがあるのかもしれない。話の内容は、僕には共感できなかったけれど――理屈としては、理解できた。


「紅茶、すっかり温くなっちゃったな。それじゃ、あたし、行くね」


 飲み干したティーカップを置く音がして、アプリコットティのカポカポという独特の足音が遠ざかっていった。

 ベルフラワーは何を考えているのか、どんな顔をしているのか、僕には分からなかったけれど――彼女はしばらくテラスで座ったまま、じっと黙り込んでいた。


***


 そして、舞闘当日。

 僕はベルフラワーに、自分が調べたアプリコットティの性能や、戦術の傾向と対策について延々説明したものの、彼女はずっと、どこか上の空のような顔だった。話を聞いてるのか? と尋ねると、僕のスネを蹴りつけようとしてきたので、どうやら話は聞いているようだったけれど。


「一体、どうしたんだよ。ちゃんと闘えるのか?」

「そんなの、当たり前でしょう。私……たぶん、ちょっと怒ってるんだわ」


 仏頂面のまま、ベルフラワーは廃棄場から大股に歩き去って行った。

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