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第十六話 静かなる決着(後編)

 その週の水曜に行われた本興行は、ロングレッグ舞闘場の歴史上、三番目に短い決着時間として記録を残すことになった。

 もともと、ジェントルノックは無口で、闘い方もスピード勝負なだけに、舞闘時間が短くなりやすい人形ではあったのだけれど。


 いつものラッパの音が鳴り終わると、ジェントルノックはサッと短い髪を撫で付けて、ベルフラワーを真っ正面から見据えた。相手の攻撃を待ち構えるか、それとも自分から仕掛けるか、様子を見ていたに違いない。

 先に動いたのは、ベルフラワーだった。彼女はトトッと踊るような足取りで対戦相手へ駆け寄ったかと思うと、唐突に地面を蹴って空中へと跳び上がった。

 ジェントルノックはすぐにその動きに反応し、華麗に体を一回転させながらその場を飛び退き、同時に、刃を振るいながら飛び降りてくるベルフラワーめがけて、自分の二つの武器を解き放った。胸元、シャツの隙間からは鋭く輝く銀色の肋骨を、そして両手からは二つの円盤、通称「エレマグ・ヨーヨー」を。

 浮遊するヨーヨーは瞬時に死角へと回り込み、挟まれた敵は肋骨の槍に刺し貫かれるか、円盤に背骨を打ち砕かれるか、どちらにせよ死か敗北は免れない。ベルフラワーもまた、そんなジェントルノックの必勝パターンにはまり込んでしまったように見えた。

 けれど、彼女は気付いていなかった――ベルフラワーの攻撃は、その時すでに完了していたのだということに。


「……挨拶くらい、しとけばよかったかしら」


 ベルフラワーの呟きを、不思議そうな顔で聞きながら、ジェントルノックは伸ばした肋骨の槍とともに、空中をくるくると回って、地面に落ちた。彼女の腰から下だけが、まだ舞台の上にしっかりと両足をついていた。


「ご苦労様、二人とも」


 真っ二つになった対戦相手を悲しげな目で一瞥したあと、ベルフラワーはフワリと近寄ってきた彼女の小さな相棒たちをポンと手の先で叩いた。

 それは、彼女が再生処置を受けている間に、新たなスポンサーから与えられた武器だった。

 「シュガーキューブ」と名付けられたその二機の四角い自律兵器は、ベルフラワーが攻撃を仕掛けると同時に彼女のスカートの中から飛び出して、ヨーヨーたちよりも一足先に、相手の死角へと回り込んでいた。そして、ジェントルノックが動いた瞬間、二機の間に発生したレーザーが、彼女の上半身と下半身を切り離したというわけだ。


 シュガーキューブたちは、かつてベルフラワーが倒した舞闘人形、シュガープラムのスポンサーだったセドラス・ヴァリアント社から提供されたものだ。

 敗者側に出資していたスポンサーが勝者側に乗り換えるのは、この舞闘場ではよくある話とは言え、その切り替えの早さには感心してしまう。企業から見れば、広告塔としてより強い人形を選ぶのは、ごく当たり前のことなのだろうけど。


 地面に転がったジェントルノックは、幸い――かどうかは分からないけれど――とにかく、まだ息があるようだった。彼女たちの体は、なるべく丈夫に、そして死ににくく作られている。生物としての内臓機能はすべて「オルガンボックス」と呼ばれるケースに収められ、肋骨で囲まれたそれさえ破損しなければ、彼女たちは大抵意識を保っていられるのだ。

 けれどジェントルノックにはもう、闘う力も、意思も残されてはいなかった。

 彼女は右腕を空に向けて振り、潔く降参の合図を出した。そして再びラッパの音が鳴り、舞闘は終了――開始のラッパが鳴り終わってから、わずか二十秒ほどのことだった。

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