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第十一話 グラディアトリクス(前編)

 それから僕たちは、毎日廃棄場で会って、「仕事」について話し合うようになった。他の場所では誰かに聞かれる危険があるし、あまり一緒にいるところを見られるのも不都合だからだ。計画のことがバレなかったとしても、使用人が自分の人形たちに近づいていると知ったら、ロングレッグ氏は僕を放ってはおかないだろう。


 具体的な案として最初に挙がったのは、舞闘の最中、誰よりもロングレッグ氏の近くにいる僕が、直接彼を殺すという方法だ。言い出したのは僕だったけれど、ベルフラワーは気が進まないようだった。


「でも、あなたは武器を持ってないでしょ。私の足でもちぎって持っていく? その辺に落ちてる手足に、小型のキャノン砲でも入ってないかしら……」


 そう言って、ベルフラワーは廃棄場に転がった部品や肉片をひっくり返し始めた。僕はむっと漂ってきた生ぐさい臭いに顔をしかめて、彼女を止めた。


「やめろよ、はしたない。武器になりそうなものは、ここに運ばれる前にバラされてくるんだ。企業秘密だからな。それに、武器は要らないと思う。彼はどうせ、生命維持装置なしじゃ生きられないんだぜ。チューブを一本引っこ抜いてやれば、それでおしまいさ」


 軽い口調で言ってみたものの、僕もさすがに、そう簡単にいくと心から信じていたわけではない。僕の微妙な不安を感じ取ったのか、彼女は腕を組んで、フームと唸った。


「協力者のあなたにそれをさせちゃうのって、なんだか違うって感じがするの。それって、なんだか……なんて言うのかな。『申し訳ない』? あら、私、こんな言葉使うの初めてだわ!」


 ヘンなところで感動している彼女に向かって、僕は首を横に振った。


「気持ちはありがたいけど、手早く済むなら、それが一番だろ。とにかく、それが実行可能かどうか、ちょっと探ってみるよ」


 ベルフラワーは渋々うなづいて、歩き去る僕に手をハタハタと振った。彼女はすっかり普段通りに振る舞おうとしているようだったけれど、その手つきは、まだどこか弱々しく見えた。


***


 翌週の月曜日、僕はベルフラワーに言った通り、前座興行を観戦するロングレッグ氏の様子を横から探ってみることにした。

 眼下の舞台で闘っているのはフラワーペタルと、等級Cのハニーパイだ。両者とも長く下位等級に留まっている舞闘人形で、正直なところ、舞闘の内容は僕から見ても退屈なものだった。


 フラワーペタルの武器は、頭に装着した花冠型の自動迎撃レーザー砲台。それ自体はかなり高精度なものらしく、ほとんど敵を寄せ付けないのだけれど、いかんせん全くの自動制御なので、彼女はぼけっと突っ立って敵が近づいてくるのを待つしかない。

 対するハニーパイは、皮膚にアダマンチウムの繊維を編み込まれた、高い防御力が売りの舞闘人形だ。しかし、一方で攻撃には決定力が欠けている――というのがもっぱらの評判。その評判通り、彼女はフラワーペタルの迎撃レーザーを身に受けながら、何度も真っ直ぐ突っ込んで行くのだけれど、あたふたと避けるフラワーペタルをなかなか捉えきれずにいた。


 まさに「泥仕合」という言葉がふさわしい退屈な舞闘だったものの、見ている観客たちは大きな歓声を送っていた。きっと、何度もレーザーの直撃を受けたハニーパイの服が、どんどん破けてきているせいだろう。一方、ロングレッグ氏はすっかり興味を失ったらしく、目を閉じてスゥスゥと小さな寝息を立てていた。


 探りを入れるなら、今しかない――僕はそう判断して、彼の背中の生命維持装置に目をやった。彼の心臓とも言うべきその大きな装置は、いつもロングレッグ氏の背後でフィフィとかすかな音を立てていた。実際、どういう仕組みになっているのかなんて、僕にはもちろん分からない。その装置に触ることが許されているのは、彼が契約したメンテナンス業者だけだった。

 けれど、彼を殺すのに機械の知識は必要ないはずだ。装置とロングレッグ氏との繋がりさえ絶ってしまえば、それがどれだけ高級で高機能であっても、ロングレッグ氏は確実に死ぬ。外から見る限り、重要そうな繋がりは二本あった。装置の上部から鼻の穴へ伸びた透明なチューブと、装置の下部から首の後ろへと繋がれた、金属の蛇のような太いケーブルだ。

 鼻のチューブは、手で引っ張ればすぐに抜けるだろう。金属のケーブルはどうするか? 靴底で思いっきり蹴り付ければ、さすがに外れるだろうか。


 ロングレッグ氏はまだじっと寝息を立てたまま、目を覚ます気配はない。僕は思い切って、鼻のチューブに向かって手を伸ばしてみた。それが、僕の手に届くものなのかどうか、確かめたかったのだ。

 慎重に身を乗り出し、肘掛けに置かれた右腕に触れないよう気をつけながら、古びた遺跡のような灰色の顔へ、そっと指を近づける。


 しかしある距離まで近づいたところで、ふと指が止まった。いくら力を込めても、見えない力でグッと押し戻されてしまうのだ。おそらく、何らかのバリアを発生させているのだろう。

 最新軍事技術のショウケースである舞闘場の主人が、自己防衛のためにそれくらいのテクノロジーを導入することは、当然といえば当然だ。彼には金も、権力もあるのだから。


 これほど間近に見えているのに、手が届かないのか――失望を感じながら、ゆっくりと指を戻そうとした瞬間、安楽椅子のモニターがピッと音を立てた。ぞっとしてロングレッグ氏を見ると、彼は両目を静かに開いて、僕をじっと見つめていた。彼のコバルトブルーの瞳は、吸い込まれそうな、澄んだ色をしていた。


(この椅子が欲しくなったのか?)


 モニターにはそう表示されていた。僕は血の気が引くのを感じながら、声が震えないよう慎重に答えを返した。


「虫が……ハエがとまっていたので」


 僕の答えに納得したのかどうか、ロングレッグ氏はフイと顔を舞台の方へ向け、それ以上の追求はしなかった。

 自分では、彼を殺せない――背中が汗ばむのを感じながら、僕はそう思わざるを得なかった。舞台の上では、ほとんど裸同然の格好になったハニーパイが、ペタルを殴り倒したところだった。笑い混じりの歓声の中で、彼女は勝ち誇ったように右手を掲げた。

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