久しぶりの
レオンハルトは5分ほど経ってからリビングに姿を現した。
手には空になったグラスを持っていて、
「ありがとう。美味しかった」
と言ってくれた。わたしは少し照れてしまい、顔を逸らしながら「いいえ」と答えた。
「あちらに洗面台があるので、お顔を洗って来られますか?」
そう言ってタオルを渡し、案内した。レオンハルトは背が高く、頭が天井に近い彼の様子を見ると、いつもは広く感じるこの家も少し小さく感じる。
こうして人が家にいるって、何だか不思議だなぁ。両親はこんなに背も高くなかったから、懐かしいというより新鮮な感じ。
それからレオンハルトに桶を渡すと、井戸の場所を伝えて水を汲みに行ってもらった。
騎士様を足で使っているようで何とも居心地が悪いが、レオンハルトは明るい表情で出て行く。きっと体調も良くなったのだろう。この回復力はさすがだ。
その間にわたしはパンやサラダの準備をする。
昨日市場で色々買っておいて良かった。美味しそうなパンがあったので、少し奮発して買ってみたのだ。
1人で味わう予定だったけれど、誰かと一緒に食べられるなら、それはきっと楽しいでしょう。
久しぶりの誰かとの朝ご飯。お昼や夜知り合いと一緒に食べることはあっても、朝を一緒になんてことはほとんどない。
朝ご飯を誰かと食べるというのは、ちょっと特別なことなのだ。
そう思うと、この後がちょっと楽しみになってきた。
昨日出会ったばかりの人と、しかも騎士様となんて考えたこともないけれど、こんなこともあるんですね。
そんなこんなで準備を進めていると、レオンハルトが帰って来た。水がたっぷり入った桶を下げている。
「おかえりなさい。ありがとうございました」
「――ただいま」
レオンハルトの顔が少し赤くなる。慣れていない感じに、どことなく好感がもてた。
レオンハルトは伝えられた通り桶の水を瓶に移すと、他には何かないかと言ってきた。そうですね…。
「では、もう一度外へよろしいですか?」
そう言って戸口へ向かうと、レオンハルトは不思議そうな顔をした。
カゴを2つ手に、キッチンに近い扉から外へ出て少し歩くと、小さな畑に辿り着く。
「ここ、わたしのお気に入りの場所なんです」
そう言った先には、野菜や野イチゴが広がっていた。わたしが毎朝摘んでいるお庭だ。
「菜園…か?」
レオンハルトが尋ねる。周りには雑草も広がっているので、畑とそうじゃないところの区別は実際わかりにくい。
「そうです、わたしのお庭です。レオンハルト様、よろしければこちらの野イチゴを収穫してもらえますか?」
そう言ってカゴを1つ渡した。
相変わらず不思議そうな顔をしてレオンハルトはカゴを受け取ると、野イチゴの前に佇んだ。
「すまない。こういったことは初めてなんだが、どれを摘めばいいんだろうか」
困った様子で彼が言う。なるほど、さっきからの表情はそういうことか。
「ふふ、野イチゴはですね…」
そう言って濃い赤色をした実を1つ手に取ると、実の付け根を指で落として摘みとった。
「こういう深い色味の物がより熟していて、とっても甘いんです。茎が残らないように摘むと、後からの作業が楽になります」
「わかった。やってみる」
そう言うと、レオンハルトはしゃがみ込み収穫を始めた。
こういう土くさい作業は嫌だったかなとさり気なく様子を伺うと、意外にも少し楽しそうに見えた。
それならばとわたしは菜園の方へ向かい、サラダに使う残りの野菜を収穫した。
少ししてレオンハルトの元へ戻ると、カゴの中は半分ほど埋まっている。きっと要領が良いのだろう。
「調子はどうですか?」
尋ねると、熱中していた様子のレオンハルトが顔を上げた。朝日に蒼色の瞳が反射して、わたしを映す。
改めて見るその顔は端正で凛々しく整っており、黒く艶のある髪が朝日に照らされたその姿は、あまりにも月並みな表現だが、美しかった。
「このくらい摘んだが、どうだろう」
レオンハルトは少し弾んだ声で、そう言ってカゴを持ち上げ、わたしに見せてきた。
その様子は先ほどの印象と打って変わって、どこか少年のようなあどけなさが混じっている。
「完璧です…」
「そうか、よかった」
思わず漏れ出た彼への感想を、イチゴの収穫量のことだと勘違いしてくれたようだ。よかった…。
正直こんなに綺麗な人は初めて見たので、つい見惚れてしまいました。昨日はもっと辛そうな表情でしたしね。
家の中へ戻ると、収穫したものたちを先ほどの水で洗い、野イチゴは粗く潰してクリームに乗せた。
「お待たせしました。では、朝食を頂きましょう」
「…いただきます」
そうして2人向き合い、朝ご飯を食べ出した。
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