身の丈に合った生活
森の出口までやって来ると、太陽は真上から傾いたところにあった。もうお昼は過ぎていたらしい。
確かにお腹も空いてきたはずだ。
わたしは家まで戻ると、まずミントをもう一度軽く洗い、飲み水の瓶へと入れた。入れる際はより香りが高くなるよう雑に千切っておく。
この瓶の底には氷属性の魔法陣をおいているので、水は常にほど良き冷たさを保っている。この魔法陣は町の雑貨店で買ってきたものだ。
わたしは魔法が使えないので、こうして必要なものを購入する。魔法が使える人ならば誰でも使えるものなので、この魔法陣自体はあまり高価なものではない。
でも、自分で作ることの出来る人は羨ましい。
この国の人は誰でも魔法を使う素質がある。
しかし、使い方は勉強しなければ分からない。算数だって音楽だって、全部学ばなければ出来ないし分からない。魔法もそういう勉学の一つだ。
田舎こそこうした魔法は役に立つけれど、さっきの氷属性魔法陣のように、生活に必要な魔法は大抵魔法陣を購入して事足りる。
衣服を乾かせるような風属性魔法、凝った料理を作りたい時の炎属性魔法など、贅沢品になるほどより高価にはなるが、それでも手に入らないようなものではない。
魔法陣は魔法を使える者が直接描いたものでなければ発動しないため、貸し出すことは出来ても、真似をして作ることは出来ない。何とも良く出来たシステムだ。
そういうわけで、熟練した魔法を必要とする職業でない限り、日常生活は事足りる。その"熟練した魔法を必要とする職業"とは、治療士や騎士、学者など、ほとんどがいわゆる高等教育を必要とする職業だ。そのため魔法を教えられる教師は多くはなく、田舎には魔法を教えるような学校はない。
魔法が授業に組み込まれている学校は、人の集まる都市に集中している。つまり、そこそこの経済力がなければ、魔法を学ぶことは出来ないのだ。
魔法が使えたら、便利なんだろうな。
でも、その分命や時間を費やす職業が多いから、大変さも伴うし…。やっぱり身の丈に合った生活が1番です。
わたしはミント水の隣に置いているレモン水の瓶から水を汲んで、喉を潤した。
少し塩も入れているので、採集で疲れた身体に程よく沁み渡る。
お昼ご飯には森で摘んだ赤い実と、焼いたパンに卵とソーセージを乗せ、そこにソースをかけたものを作った。ハーブと香辛料を加えると、より香り高く美味しくなる。
そうして午後のひと時を過ごした後は、足りない物の買い足しに町へ向かった。森で採集したばかりのハーブや木の実も持っていき、まだ鮮度の高いうちに売ってしまう。
お金に換えるものと物々交換をするものとで必要なものを手にした後は、町をぶらぶらと歩いて帰宅した。
この時には既に太陽は地平線に迫りつつあった。
「そういえば…」
今朝森で会った騎士様は、もう森を出たのでしょうか。いくら安全とはいえ、夜の森は危険だ。何より、暗い。
魔法を使えば辺りを照らせるだろうが、光に集まるモノは多い。
「まぁ、騎士ですしわたしの心配には及ばないでしょうけど」
家に帰り着くと、買ってきたものを台所に置き、エプロンをつけてから井戸水を汲みに行った。
夜暗くなって外に出るのは危ないし、手先もよく見えないので必要なことは陽のあるうちに済ませてしまう。これが日々の日課だ。
さっきお昼ご飯を食べたばかりなのに、もう夕ご飯の支度をする頃合い。日々の食事は楽しくもあるが、同時に面倒でもある。それでも、お腹が空くのを我慢出来るタチではないので、食欲に従ってご飯の準備に移行する。
「さーて、今日の夜ご飯は何にしようかな〜」
鼻歌交じりに呟いて顔を上げたとき、ふと遠くに人影が見えた。あれは…騎士様?
疲れた様子のレオンハルトに顔を向けると、空を見つめていたレオンハルトもこちらに気付き、目があった。




