袖ふれあうも
「あの、すみません」
声をかけてみるけれど、反応がない。もしや本当に倒れてる…?
外傷は見当たらない。体調でも悪いのでしょうか。
「あの…」
今度はもう少し近づいて、より大きく声をかけてみた。
「・・・!」
するとその人は突然起き上がったかと思うと、剣に手をかけその刃を見せた。
「!」
わたしは思わずのけぞって、目を見張ってしまう。
「誰だ」
剣を持ち、各所に鎧のプレートを身につけた騎士のような男が、鋭い目つきでこちらを睨んだ。
誰だ、と言われましても…。
「驚かせてしまってごめんなさい。わたしはフィオナ・シャルロット。近くの町に住んでいる者です」
「なぜこんなところに一人でいる」
「なぜって…薬草や木の実をとりに来たんです。そうしたら、あなたがここで倒れていたので、それで…」
何も悪いことはしてないんですけどね…企んでもいない。
男性はしばしわたしのなりや様子を窺うと、
「そうか…すまなかった」
そう言って剣を鞘に収めた。先ほどの警戒した表情は薄れている。
「あの、気分でも悪いのですか?」
「いや、少し休んでいただけだ。問題ない」
そう言って小さく溜め息を吐く。
突然の出来事で目に留まらなかったが、よくよく見てみると端正な顔立ちをしていて、装いもどこか品がある。
そうしてジッと見ていると、彼は再びこちらに向き直った。
「この森には魔物や魔獣がいると聞くが、キミはそんな森に来て大丈夫なのか?」
「平気…とまでは言えませんが、この森の魔物たちは滅多なことでは人里へ近づきません。なので大丈夫です」
「そうか」
そうして会話が途切れてしまったので、今度はわたしから質問した。
「ここでは何をしていらっしゃったんですか?道に迷われたとか…?」
「いや、わたしはこの森の調査に来たんだ。以前魔物と町人との間で争いがあったとのことで、定期的に国からの監査が入っている」
「そんな大事になっていたのですね。国から…ということは、あなたは騎士様でしょうか?」
「ああ。ウェイン・レオンハルトという。過去に起きた乱闘を知っているか?」
「レオンハルト様、初めまして」
やっぱり騎士様だった。目上の方なので、一応挨拶をしておく。
「はい、わたしが幼い頃に起きたものですね。先ほど魔物たちが人里に近づかないと申し上げたのは、それがきっかけです」
「その乱闘の中で何かあったのか?」
「えぇ、まぁ…」
そう言ってわたしは先を濁した。今朝見た夢が脳裏に浮かぶ。
レオンハルトは少し眉をひそめたが、表情が翳ったわたしを見て、それ以上は追求してこなかった。
わたしは気をとり直すと、レオンハルトに声をかけた。
「私の家、森に近いところにあるんです。もしお疲れでしたら、少し休んで行かれますか?」
「いや、大丈夫だ。代わりに家まで送ろう」
「いえ、慣れた道なのでわたしは大丈夫です。お仕事もあるでしょうし、わたしはここで失礼しますね」
「そうか。ではこの後も気をつけて」
「ありがとうございます。レオンハルト様もどうかお気をつけて」
そう言って、わたしたちは別れた。
わたしは川原に用があったのでそのまま草原の方へと歩いて行き、振り返ると、レオンハルトは森の奥へと進んで行くのが見えた。




