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日常


 微睡(まどろみ)の中目を覚ますと、既に朝日がいっぱいに部屋の中を照らしている。

 春の暖かい空気は暁を覚えないほど心地よい。


 久しぶりに見たなぁ。

 手を額の上にのせ、天井を見上げながらわたしは思う。

 あの魔物いきもの…今はどうしてるんだろうな。

 小さな痛みが胸に疾る。わたしはその痛みを振り払うように、ベッドから起き上がった。

 鏡の前に立つと、頬にはひと筋の線が走っていて、初めて自分が泣いていたことを知った。


 そのまま顔を洗って、朝食の準備にかかる。

 腰巻きのエプロンとブーツを身につけ、片手で持てる大きさの平らなカゴを持って外へ出た。

 これが朝食の準備なのだ。

 家の裏へ廻ると、朝日を浴びた野イチゴがキラキラと輝いている。今日も美しい。

 イチゴは何て愛らしいのでしょう。緑生い茂る中の赤い実には、人を魅了する魔法の力があると思う。

 でも、ここで取りすぎてはダメ。

 他の動物だって、この実を糧にしているものもいるんですから。

 わたしはカゴの3分の1程度に苺を摘んで、次の場所へと歩き出した。


 向かう先は菜園で、ここでの収穫物はサラダ用のリーフ。ここでは緑と紫、赤っぽい色味のリーフを育てている。

 彩があった方が見た目が良いので、そこからバランス良く摘み取った。


 そうして必要なものを採り揃えると、わたしは家に戻ってそのまま台所へと向かった。

 採れたての果実や野菜を井戸から引いた水で洗い、軽く拭ってからお皿に並べる。野イチゴはミルクで作ったクリームと合わせて小皿に盛り付ける。

 それからパンをフライパンで軽く焦げ目がつくまで焼き、そこにバターを塗ってこちらもお皿へ。

 付け合わせは、これもミルクから作ったクリームにチーズを合わせたもの。

 これらをトレイに並べて、食卓へと移動する。


 「では、いただきます」

 誰もいない食卓へ向かって、声をかける。

 1人だからこそ、こうしてちゃんと挨拶をして、しっかり区切りをつける必要があるのです。

 今日のご飯もとっても美味しそう。

 早速温かいパンから口に運ぶと、沁み渡るバターの香りと程よい塩気が口の中に広がる。あぁ、幸せ…。

 

 今度はクリームチーズをのせてかぶりつく。冷蔵庫で保存している冷たいクリームと、温かいパンの相性は絶妙で、これもわたしのお気に入り。

 このクリーム、ちゃんと作れるようになっておいて良かった。ありがとうございます、お母さん!


 それからわたしはリーフ野菜と甘い野イチゴがいっぱいのクリームも平らげ、満足に朝食を終えた。

 朝は大体このメニューだけど、不思議と飽きないのです。

 ちょっと味気なくなった時は、取り合わせを変えてみるとまた新しい美味しさに出会えます。

 

 手早く食器を洗い終えると、わたしは再びカゴを手に外行きの準備をする。

 今度の行き先は森なので、カゴも取手のついた大きなものだ。


 「では、行ってきます」

 わたしはまた誰にともなく声をかけると、鍵をかけて歩き出した。

 今は春の終わりで、優しい日差しが燦々と降り注いでいる。空を見上げると、そこでは2頭の竜が太陽の周りを弧を描くように飛んでいた。

 「あの子たち、あんなに大きくなったんですね。もうすぐ巣立ちかぁ」

 わたしの家の近くの木でも鳥の雛が孵って、今では産毛もすっかり抜け切っている。これからそれぞれの旅立ちに向けて、成長する季節だ。


 森に着くと、陽が翳り、植物が多く茂るようになった。

 木漏れ日が降り注ぐ森の中は、多くの植物にとって適した環境なのでしょう。

 今日のお目当ては、薬草と木の実。

 この森には、あの生き物に教えてもらった美味しい実が実っている。

 葉と実では、実の方が保ちが長いから、先にそちらの収穫に向かいます。


 しばらく道を歩いていると、ちらほらと白い花が見え始めた。これはあの赤い実のなる木が近くにあるということ。

 この白い花とあの木は、セットで自生するようなのだ。


 早速果実を見つけたわたしは、カゴに摘んでいきながら摘み食い、また摘んでは摘み食い…と繰り返して実を収穫した。

 これは食後のデザートなので、問題なし。


 次に目指すのは川の近く。

 この川は森と草原の境目にあって、森の方が少し小高くなっているので、眺めがとても良い。

 この付近では川の水が浸み込んだ大地で育った、薬草のハーブが採れる。

 こういった薬草は草原の道端でも見かけるけれど、ここで採れるものがわたしの知っている限り1番質が良い。

 何かを作る上で、素材の良さが1番の決め手になる。この広大な美しい自然に、今日も感謝です。


 そうしていつもの場所に辿り着くと、そこには先約がいた。

 あれは…倒れているのでしょうか?

 森から川へと続く斜面に、人が横たわっている。

 この場所に来る人なんていないのに、これまで誰とも会ったことがないのに。もし倒れているのなら手当をしないと、だめ…ですよね?

 どこの誰とも知らない人への恐怖感を抱きつつ、わたしは手を握りしめると、その人の側へ歩み寄った。



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