それぞれの日々
レオンハルトが王都へと旅立って早数週間。
わたしはというと、いつもと変わらない日常を過ごしている。
道で見知らぬ誰かに出会うことも、誰かが家を訪ねて来ることもなく――まぁ、平穏が1番いいのでしょう。
町では友人に会うこともあるし、お店の人と話すのも楽しい。ただ、みんなそれぞれに仕事があるので、特に何とはないのだ。
「久しぶりの誰かとのご飯、楽しかったなぁ…」
ふいにそんなことを思ってしまう。
平凡な日常にちょっとした風が吹くと、心地良さに浸ってしまうものだ。
それが過ぎ去った後には、何とも言えないもの寂しさが残る。
「王都、かぁ…」
わたしの頭には、ふいにそんなことが浮かぶようになっていた。
これまで微塵も思わなかった「王都へ行く」ということが、何となくわたしの中に小さな蕾がついたように居座っている。
「一度訪れてみるのも、面白いのかも…」
それはというのも、全部レオンハルトのせいだ。悪い意味ではない。ただ、レオンハルトに出会わなければ、日常に物足りなさを感じることも、見知らぬ土地へ足を運ぼうと思うこともなかったのだ。
見知らぬ場所、初めてのこと、そういうものはいつだって人の歩みを止める。
ただそこに1人見知った人がいるというだけで、重くのしかかる不安も躊躇いも、ふっと軽くなるのだから不思議だ。
レオンハルトと別れてからというもの、そんな想いが浮きつ沈みつ、ふわふわとわたしの心を彷徨っていた。
・・・・・
王都へ戻って1週間が過ぎた。
あっという間の日々だったが、溜まっていた疲労もようやく回復しつつある。
町を出てから半日後、やっと王都へ帰還した。日が昇った頃に出て日が傾き始めた頃に着いたのだから、それなりの距離を走っただろう。
途中休憩もとったものの、馬にも疲労を感じた。正直なところ、あの日あの少女が渡してくれた軽食には救われた。おかげで他の街に寄ることもなく、最短距離で帰ることが出来た。
王都に着いてからしばらくの間は忙しなかった。
帰ったその足で王城へ行き上司に報告を告げ、それから他の騎士たちに会い、ようやく邸に辿り着いたのは、日も暮れて街の灯がにぎやかになってのことだ。
帰って来た私を見た邸の者たちは、すぐにバタバタと動き出し、夕食と湯の準備が整った。
ある程度の日程は伝えてあったものの、正確な帰宅時間は分からなかったため、突然皆を急かしてしまったことに少し申し訳なく思う。
さすがに疲れたので、その日はさっさと湯浴みを済ませると、すぐ寝室へと向かった。
翌日は休暇をもらい、翌々日からはまた仕事という日常に戻った。
日々の業務は同じものばかりではないが、ある程度のルーティーンは決まっている。慣れた日々の業務にホッとひと息を吐いた。
街を離れての調査は新鮮ではあるものの、慣れない土地というのはそれなりの違和感がある。
今回は旅先で体調を崩すという失態をしてしまった。不甲斐なさと恥ずかしさが、どうしても消え去らない…。
あの少女にはとんだ迷惑をかけてしまったが、もしあのまま帰路に着いていたら、もっと寝込んでいたことだろう。醜態と引き換えに、体調を得たわけだ。
仕事仲間には何かあったのかと言われたが、軽く誤魔化しておいた。出張はそう珍しいことでもないので、詳しく足を踏み入られずに済んだ。
あの時のことを思い出すとまず羞恥に苛まれるが、それだけが残った訳ではなく、なぜか妙な安心感のようなものを感じる。優しく微笑まれるような、そんな気分になるのだ。
それはきっと、彼女の対応のおかげだろう。
ふつうであれば、独り暮らしの女性の家に一晩も居ておきながら、こんな気持ちでいられるはずがない。
友に感じるような、そんな安心感があった。
私が悪人だったらどうしたのかとも思うが、そういったことには敏感そうだ。その後も元気で過ごしているといいなと思う。
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