旅立ちと残ったもの
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朝食を終えると、レオンハルトは帰省の準備をするといい、寝室へと向かった。
彼の荷物は元々まとまっていたから、そう長くもかからないでしょう。後片付けはもちろん断り済みだ。
その間にわたしは食後の紅茶を準備する。朝は爽やかなものをというわたしの好みから、紅茶はレモンを加えたものにした。
レモンが摂取した脂質を整えてくれるだろうから、馬に乗っても酔わずに走られるだろう。
紅茶を淹れ終わる頃には部屋から出てくるだろうと思っていたら、そうでもなかったので少し待ってから部屋を訪ねようとすると、そのタイミングでレオンハルトが出てきた。
「あの、食後の紅茶を淹れたので、ご出発前にいかがですか?」
見ると外套以外はしっかり着込んで綺麗に身支度を整えてある。きっと出発の挨拶に一度出てきた、というところだろう。
「いや、私は…」
「王都に戻るまで、しばらく何も口にされないのではないですか?レオンハルト様の分も準備してあるので、ぜひ出発の前に召し上がってください」
「…わかった」
少し間が空いた後、そう返事がきた。せっかく淹れてくれたものを無下にするわけにもいかないと思ったのでしょう。
足止めしてしまって悪いと思いつつ、何も食後すぐに発つこともないだろうと思い、わたしはそのまま彼と一緒に居間へと向かった。
「上手いな」
ひと口紅茶を飲んだ後、レオンハルトがそう口にする。紅茶の味も淹れ方も、きっと両方合わせての言葉だろう。料理は素材の味を活かした、下拵えのいらないものだったから良しとして、紅茶は淹れ方で美味しくも不味くもなるから、正直ちょっとホッとする。
都会の貴族は普段から紅茶を飲み慣れている、というのがわたしの考えだけれど、きっと間違っていないはず。
「よかったです。貴族の方々は良い物を飲み慣れていらっしゃるでしょうから、正直ちょっと緊張しました」
「そんなことはない。それに、普段は使用人がしてくれるから、私自身美味しく淹れられるかはわからないからな」
そう言ってレオンハルトは微笑むけれど、野イチゴの手際やこれまでの行動から、きっとこの方は少し見ただけで上手く出来るとわたしは確信する。
「今日はこれからどうなさるのですか?」
「馬の様子を見て、ここを発とうと思っている。王都へは昼過ぎには着けるだろう。それから今回の任務の報告をして、全て終わりだ」
最後はちょっとした安堵を感じ取れた。そうですよね、住み慣れたところに戻るのが1番安心です。
「あなたには、本当にお世話になった。もし王都へ来る機会があれば、邸を訪ねてみてくれ。改めてお礼も出来るから」
律儀な人だなぁ。
わたしが王都へか…行ったこともないし考えたこともない、けどー。
「ありがとうございます。その時は、ぜひ」
そう答えておいた。
食後ならしを終えたわたしたちは、そのままお互いのやるべきことを済ませ、レオンハルトの出発となった。
「レオンハルト様、こちらをどうぞ」
そう言ってわたしは小さな包みを渡した。
「これは…?」
「朝食のパンの残りと、わたしお手製のハーブティーです」
ハーブティーは嵩張るといけないので、小さな水筒に淹れておいた。
こんな貧民食みたいなものは失礼かもしれないが、乗馬というのは思いの外体力を使う。
「いや、ここまでもらう訳には…」
「いいえ、わたしも久しぶりに誰かと一緒にいられて、楽しかったんです。ありがとうございます」
そう言うと、レオンハルトは少し驚いたように目を見張った。それから今度は穏やかな顔をして、
「わかった」
と呟くように言った。そしてわたしへと向き直ると
「本当に世話になった。では、またどこかで」
と言って馬に跨り、そのまま真っ直ぐ前を向いて走り去って行った。
「行ってしまいました。ちょっぴり寂しいものですね」
その後ろ姿を見送りながら、わたしは思う。
お別れは、寂しいものなのだ。仕方がない。
「さ、今日もわたしの1日を始めましょう!」
そう自分に掛け声をかけて、レオンハルトが去った道に背を向けると、わたしは我が家へと引き返していった。




