朝ご飯 ②
中へ戻ると、シャルロットはテキパキと残りの準備を済ませ、テーブルに食事が並んだ。
「お待たせしました。では、朝食を頂きましょう」
「……いただきます」
他人の家で勝手が分からないとはいえ、義理も何もない相手にここまでしてもらい、どうにも頭が上がらない。だが、ここで「すまない」と添えるのはきっとそぐわない。そんな気がする。
そうした全てを飲み込み、なんとかこの言葉だけを絞り出した。
朝食のメニューは、焼いたパンに先ほど収穫した野菜のサラダ、そして野イチゴを乗せたクリームに卵とベーコン。
一般に朝食に好まれるメニューだが、肉やクリーム、採れたての野菜に果実などは、きっと田舎の暮らしの中でも良い類のものだろう。
温かいうちにパンを手にとり、ひと口かじる。ただのトーストなのに、表面のサックリとした焼き加減にバターが染み渡り、思った以上に美味しい。
そんなことを思いながらじっくりとトーストを味わっていると、
「ここのトースト、中に蜂蜜が練り込んであって、とってもいい香りで美味しいんですよ。良かったら野イチゴのクリームも付けて食べてみてください」
とシャルロットがニコニコしながら言ってきた。もしや表情に滲み出ていたのだろうか…。
言われた通り、クリームをひとすくいして合わせて食べてみる。冷たく、そして少し酸味のあるクリームに先ほど収穫したばかりの野イチゴの甘さが広がり、パンとの相性がすごく良い。
「美味い」
素直な感想がでた。
「お口に合ってよかったです」
そう言ったシャルロットは、どこか得意げに見えた。「そうでしょう」というような表情と嬉しそうにしている様子は、まるでサプライズが成功した子供のようで、少し面白かった。
それからサラダにベーコンと、次々手を伸ばしてみたがどれも美味しい。なんだろう、自邸でも同じようなものは食べるのに、素材そのものが違う気がする。
「この食材は全部町でとれるものなのか?」
「そうです。農家、養蜂家、畜産家、色んな方たちがそれぞれ収穫したものを町で売っています。私も森で収穫した薬草や香辛料を売ったりしていますね」
「そうか。どれも新鮮で、私の邸で食べるものより美味しい。この野菜も」
「ふふ、ありがとうございます。でも、わたしは―」
シャルロットは少し視線を逸らすと、はにかみながら続けた。
「こうして誰かと食べる朝ごはんは久しぶりで、それだけでとっても楽しくて、美味しいです」
そう言われてハッとした。私も誰かと食べる朝食は久しぶりだ。こうして貴族でもない町の娘と、面と向かって普通に食事をするというのも、これまでにない経験だ。
中には田舎者は品位に劣ると決めつけ、テーブルを共にするのを嫌がる者たちもいる。
「見ず知らずの者のためにこんなに手を焼いてもらい、迷惑をかけて、早く立ち去らねばという気持ちでいっぱいだった。でも、こうして一緒に朝食を食べて、野菜の収穫をして、今までになく新鮮な出来事だった。ありがとう」
昨日までは申し訳なさや不甲斐なさ、あらゆる気持ちで霧が立ち込めるようだった胸の内も、今では穏やかになっている。不思議な気分だ。
始めは気の進まない任務だったが、滅多にない経験が出来て良かった。
さぁ、これから王都へ帰らなければ。
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