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朝ご飯 ①

・・・・・


 「おはようございます。調子はいかがですか?」

 ノックと共に聞こえた声に、意識が戻ってくる。

 目が覚めると、実際はまだ覚めきらない頭が、それでもいつもとは見慣れぬ風景を認識した。頭がボーッとする中部屋を見渡していると、1人の少女に目が止まる。

 その瞬間、昨夜の記憶が一気に蘇ってきて、急激に目が覚めた。

 「おはよう…ございます…」

 何とも間の抜けたものだ。恥ずかしさでようやく出てきた言葉も、どうにも腑抜けている。

 こんな寝起き姿をどこの誰とも知らない少女に見られるなど、他の騎士には絶対に知られる訳にはいかない。

 そんな私の様子は露にも気に留めず、シャルロットは身体の調子はどうかと聞いてきた。そういえば、昨夜に比べて身体が軽くなっているように感じる。

 「そう、だな…重かった頭が軽くなっている気がする」

 そう答えると、彼女は安心した様子を見せた。

 それからわたしに飲み物を勧めると、一旦部屋を出て今度は服を持って来る。そして、

 「これから朝食の準備をするので、ゆっくりされていてください」

 と言った。そこで私はハッとする。

 「いや、私も何か手伝おう」

 そう答えると、彼女は笑顔で、丁寧な断りを返してきた。しかし、ここで引き下がる訳にはいかない。

 そうして問答していると、「では…」と井戸の水汲みを提案された。

 きっと彼女なりに気を遣ってくれたのだろう。

 騎士である私に気後れしたのだろうが、それでも頼み事をしてくれたのは、きっと私の想いを汲んでのことだ。

 私は手早く準備を済ませると、シャルロットのくれたハーブティーを飲んで、その器を持ってキッチンへと向かった。



 キッチンに行くと、シャルロットは既に準備に取り掛かっていた。そこで早速手伝おうとした私に、

 「あちらに洗面台があるので、お顔を洗って来られますか?」

 と言うと、洗面所へと案内された。なかなか先へと進めない。どうにも気の回る少女だ。

 そうして再びキッチンへ戻って来ると、やっと水汲み用の桶を渡された。女性でも持てる大きさのもので、少し小さい。

 私はそれを2つ受け取ると、表の戸口から外へ出た。

 外の空気は少し冷んやりとしていて、澄んでいた。樹々あふれる自然の中にいるからだろう。

 見上げると、朝陽を帯びた淡い青の空が広がり、爽やかな風が吹く。

 すごく心地が良い…。都会の朝も同じ朝なのに、場所が変われば空気もこんなに変わるものなのか。

 少し先の井戸へ向かうと、手早く桶に水を汲む。

 私にとっては何ともないが、これを毎朝やるというのは女性にとってはちょっとしたひと仕事だろう。

 きっと少しは役に立てただろうから、それを思うと安心する。迷惑ばかりかけてはいられない。


 こうして水汲みはすぐに終わった。

 家へと戻り、一度桶を置いて戸口を開け、中へ入る。するとすぐに、

 「おかえりなさい。ありがとうございました」

 と声をかけられた。その言葉に思わず面食らってしまう。

 「――ただいま」

 王都の邸宅での出迎えとは違う。邸の者たちは、こんな声のかけ方はしない。主人(あるじ)と使用人としては、当然の距離だ。これまで特に気にした事はなかった。

 彼女の出迎えは、家族や近しい者へ向けるそれだった。それでいて不快感はなく、むしろどこかホッとしてしまう。

 なんだか気恥ずかしくなって、顔を上げられなかった。


 その後も何か手伝えることはないかと声をかけると、シャルロットは少し考えてから、私を裏口の方へと案内した。

 キッチンに近い扉を抜けると、そこには緑が生い茂っていた。

 「ここ、わたしのお気に入りの場所なんです」

 そう言って目を向けた先には、よく見ると赤い実が広がっている。さらに横に目を向けると、そこには他の草とは違う植物が生えていた。

 「菜園…か?」

 彼女は頷くと、野イチゴを収穫してくれないかと言ってきた。これは野生のイチゴなのか…。

 こうして自然に生えているものを収穫した経験は、あまりない。野営の時にたまに収穫して食べることもあるが、大体は必要量の食糧を持って出かける。

 「すまない。こういったことは初めてなんだが…」

 そう伝えると、シャルロットはちょっと得意になったようにふふっと笑い、収穫の仕方を教えてくれた。

 野イチゴを摘むシャルロットは、何だか嬉しそうだった。子供にやり方を教えているようで、それでいて嫌な感じはしない。

 森に近いこの場所では人と話す機会もそう多くはなさそうだが、彼女の表情は柔らかく、穏やかだ。

 仕事で人と関わることの多い騎士だが、騎士の顔に浮かぶ表情(もの)は純粋なものばかりではない。

 シャルロットは伝え終わると、畑の方へと歩いていった。

私は野イチゴに向き直り、早速摘みにかかる。

 始めは実の違いもよく分からなかったが、いくつか摘んでいるうちに濃いもの、薄いもの、固いもの、小さいもの、それぞれの特徴がパッと目に分かるようになった。

 摘むたびにカゴの中に赤い実が増えていく様子は、どことなく心がくすぐられる。いつしか夢中になって摘んでいると、シャルロットが戻ってきた。

 「調子はどうですか?」

 見上げると、彼女も手に青菜たちを抱えていた。自分のカゴへ目を落とすと、中は半分ほど埋まっている。

 「このくらい摘んだが、どうだろう」

 もしかしたら摘み過ぎただろうか…そう思いもしたが、

 「完璧です…」

と言葉が返ってきた。

 「そうか、よかった」

 どうやら大丈夫なようなので、そのまま2人でキッチンへと戻った。

 


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