高校一年生 5
次の日のお昼前、時間は12時。私は家を出た。
夜間高校なので基本的に17時に学校に着けばいいのだけれど、
今日は約束があったのでこの時間に駅前に向かったのだ。
駅前の時計台の下で待っていると
「音ちゃん。お待たせ。」
待ち合わせ相手は幹人くんだ。
「おはよう。今来たところだから大丈夫だよ。」
私がそう言うと幹人君は微笑んだあとに、
じゃあ行こっか。と言った。
少し歩いたところに目的の場所があった。
スポーツショップだ。
幹人くんはテニス部に入るみたいで昨日LINEで
スポーツショップでラケットが買いたいんけど
一緒に行ってくれない?と誘ってくれたのだ。
私はテニスはおろかスポーツはあんまり分からないので
私でいいのかな?って思ったけど
せっかく誘ってくれたので行ってみることにした。
幹人くんは中学でもテニス部に所属していたみたいで
今回もテニス部を選んだみたいだった。
真剣にテニスラケットを選んでるのを見ていると
あまり声をかけるのもなと思ったので、
私は初めてスポーツショップに入ったので
色々周って見てみることにした。
サッカーボールやグローブやスポーツシューズ・・・
なかなかいつも見ないものを見れた。
「ごめん音ちゃん。一人にしちゃって。」
少し焦った様子で幹人くんは声をかけてきた。
「ううん。私も色々見れて楽しかったよ。」
「よかったー。
ちょっとお願いがあって・・
音ちゃんにも一緒に選んでほしいんだけどいいかな?」
そう言うと幹人くんは紫と赤が入ってるラケットと
水色と白の入ったラケットを見せて
どっちがいいかな?と聞いてきた。
「こっちかな。」
私が選んだのは水色と白のラケットだ。
幹人くんは、これにする!と言ってレジに向かっていた。
幹人くんはもっさりしたマッシュヘアではあるが、
爽やかな雰囲気もあるし
何より笑顔がとてもかわいいので
こっちの色のが合うのかなと思ったのだ。
「お待たせ。付き合ってくれてありがとう。
音ちゃんは行きたいとこあるかな?」
「んー・・・・・まだ14時か。
なんか時間つぶせるところあるかな。」
私がそう言うと
「カラオケとか行っちゃう?」
「行っちゃおっか。」
二人でスポーツショップを出て駅前のカラオケに向かった。
高校生になりたてのため学生証がなかったけれど
カラオケスタッフの人が高校生料金で入れてくれた。
まあ二人とも大人には見えないからもしかしたら当たり前だったのかもしれないけど
私たちはラッキーだね。なんて言って笑っていた。
部屋に入るとテレビの前にソファーがあるタイプだったため
幹人くんとは必然的に隣に座る形になった。
どっちから歌うかジャンケンをして私が勝ったので
緊張するから幹人くんから歌って。というと
幹人くんが曲を入れた。
「え、幹人くんもこのバンド好きなの?」
「え、音ちゃんも?」
お互い驚いた顔をしていた。
テレビの画面に映ったアーティスト名を見てびっくりしたのだ。
私の好きなバンドだったのだ。
まだ話したいことがあったが、曲が始まってしまった。
男の人にしては高めのきれいな声をしていた。
「まさか音ちゃんも好きだなんてびっくりした。」
曲が終わった瞬間、幹人くんがうれしそうな顔で言った。
「私もだよ。それに幹人くん歌うまいね。」
「そんなことないよ!次は音ちゃんの番だよ!」
照れたように笑って私にデンモクを渡してきた。
私は何を歌うか迷った挙句、
幹人くんと同じバンドの違う曲を入れた。
少し緊張したけど歌い終わった。
「音ちゃんうますぎだよ!!!!」
隣で幹人くんが拍手している。
そのあとも色んな歌を歌ってお互い学校に向かった。
生徒玄関についたタイミングで穂波ちゃんと出会った。
幹人くんと私が二人で登校してきたからか
穂波ちゃんに付き合ってるの?なんて言われたもんだから
二人して、違うよ!と声を揃えて否定した。
幹人くんとは教室の前でバイバイして私は今日からスタートする授業を受けた。
どの時間の授業でもまずは教科ごとに先生が違うため
先生の自己紹介と生徒の自己紹介があった。
始めはみんな細かく自己紹介していたが最後の4時間目の授業では、
みんな疲れたのか名前だけを言って自己紹介を終えていた。
LHRも終わって私は軽音部に向かった。
部室に入って雑談をしている先輩たちに挨拶をして
私は先輩たちとは違う机に向かった。
少しすると穂波ちゃんと日向くん薫先輩が来て
私と同じ場所の席に腰かけた。
「おはよう。今日から練習がんばろうね。
それとさっそくなんだけどバンド名を決めたいなって思ってて・・・
みんな今日の夜考えて明日考えたバンド名出し合わない?」
薫先輩の提案に全員頷いた。
そこに春樹先輩が来て穂波ちゃんと日向くんに
部室にもともとあるギターとベースを渡して基礎を教え始めた。
私はギターを今日は持ってきていなかったため
薫先輩がドラムしてるのを見せてもらっていた。
すると部室の扉が勢いよく開いて予想していなかった人物が入ってきた。
生徒指導の田中先生だった。
「軽音部集合してもらっていい?」
私たちは練習をやめて皆が席についた。
「大事な話をするけど、軽音部はここ何年か活動もしてない上に文化祭も出てない。
それに加えて部活動という活動をしているのを見てない。
それらも含めて今年ちゃんとした活動がなかった場合、軽音部は廃部にすることにしました。」
先生は衝撃すぎる言葉を淡々と話した。
「どうしたら廃部にならないですか?」
春樹先輩が一番に声を発した。
「10月の文化祭で15分ステージをしてもらいます。
それに加えて文化祭に出してもいいか判断するオーディションをします。
軽音部は軽音部らしい活動をしていないのでちゃんとしたライブができるのか、
人に聞かせられる演奏か・・それを判断します。
それにより今後を決めます。
あと・・
軽音部におしゃべりをしに来ている部員もいると思うけど
そういう人は退部してください。」
最後の先生の言葉に先生がくるまで雑談をしていた先輩が驚いた顔をしていた。
「明日までに退部するか考えて下さい。
また明日来た時、雑談しに来ている人がいた場合こちらで退部させます。」
先生はそう言うと部室を出て行った。
「雑談とかはまあ仕方ない気がするね。
今は文化祭どうするかを考えよう。」
と私たちだけに聞こえる小さめの声で薫先輩が言った。