【第三章】第十九部分
危蝶は、真っ白で前後左右上下のない空間にいた。
「ここはどこですの。ワタクシはずっと寝ていたのかしら。おや、向こうに人影がありますわ。あれは大うつけ様?いえ、あの凛々しい姿は。」
白い制服の信永は、危蝶にゆっくりと近づいた。足は動かしておらず、動く歩道のように、スーッと危蝶のそばにやってきて、片膝をついた。そして、恭しく危蝶の右手を取り、甲に軽く口づけをした。
「いつもながら麗しいお姿ですね、マドモアゼル。」
「これこそ、ワタクシが求めていた真正な信永様ですわ!
胸の前で手を組んでいた危蝶は、あまりの嬉しさに、ヘナヘナとしゃがみこんでしまった。
そこにナース服のかつえが現れた。
信永がかつえに近付くと、そこにはいつもの患者椅子が置かれていた。
信永は患者椅子には座らず、その横に常備されている手術台に横たわった。
かつえは布製のマスクをして、メスを握った。マスクには『安保乃』と書かれている。
「上様、ついにこの日が訪れたことをおねいさんは号泣しますよ。うえ~ん。グサリ。スゴイ、スゴイ。」
やり切ったという表情のかつえは、信永の腹を縦に切り裂いたところで、患者椅子の傍らに崩れ落ちた。
今度は日吉が金色、ド派手なスーツで、やってきた。よく漫才師が着ているものである。
「信永様。腹を割って、おなかがすいたやろ。ウチが満腹にしたるで。よいしょっと。」
日吉は、顔を割れた信永の腹に突っ込んだ。滔々と流れる血液で日吉は、真っ赤に染まった。
「これがホントの、腹いっぱいや。」
「わははは。腹が痛いぞ、二つの意味で。ガクッ。」
信永は大笑いをして、そのまま失血で倒れてしまった。
「遂にやったで。信永様をギャグで殺したんや!バタン。」
日吉も同時に果てた。達成感に溢れた笑顔をしていた。




