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【第一章】第七部分

信永にはコスプレの趣味などないので、こんなオタクの集会場にいるはずもなかった。しかし、光秀奈は仮想・信永を念頭に置いて、シミュレーションを行っていた。

「信永様の前で、わざと転ぶのはベタ過ぎるかなあ。なにかやり方がないかなあ?」

実のところ、自分で転ぶ勇気はなかった。ベタなことはできないし、そんなことは起こらなかった。ボジティブ光秀奈の天下は3分で終わりを告げた。

「今日は信永会長の都合が悪かったんだよ。仕方ない。せめて、他の人から注目でもされないかなあ。」

しかし誰も来ない。コスプレ会場は目立ちたがりやの巣窟である。コスがド派手だったとしても注目されるのは一瞬。パフォーマンスがなければすぐにモブ化してしまう。さらに、光秀奈は、これまでのコスプレイベントでも、他のレイヤーとなかよくなったりしたわけではない。自分の心の解放感を得ていたに過ぎない。

引っ込み思案オーラはなんとなく感じられるもので、人は本能的に近づかないものである。クラスメイトで隅っこ暮らしをしているヤツを見れば明らかである。

光秀奈は、回りのレイヤーたちが友人と楽しげにやってるのを、呆然と眺めていた。

「みんな楽しくやってるんだね。それに比べて、あたしは、あたしは・・。」

周囲のレイヤーから何か言われたとか、視線を当てられたとかではない。コミュニケーションが取れている人々を見て辛くなってきたのである。

「どうして、あたしだけが、あたしだけなんだろう。ううう。」

光秀奈の頬に涙の筋が川の字を描いていた。

『ピカッ。』

落ち込んで目を閉じていた光秀奈の瞼にフラッシュが走った。光秀奈が視線を足元に下げると、カメラを持った黄色の帽子の男が見えた。

「きゃあ~。弱り目に祟り目だよ。今日はなんて日なの!」

光秀奈はカメラ小僧を排除しようとするが、カメラ小僧はしぶとく残り、執拗にシャッターを切ろうとしている。

「誰か、助けて~!」

「この狼藉者、バシッ!」

何者かがカメラ小僧をはるか彼方に蹴飛ばした。しかし、キックの風圧が凄まじく、光秀奈のスカートもめくれてしまい、中味が陽の目を見た。

「赤いほくろ!?」

その言葉をやってきた者は思わず口にした。

「キャー!」

光秀奈は暴れて、頭を振り回したため、やってきた者の臀部をカブトムシ型帽子の角で、突き刺してしまった。

「痛い!カマを掘られた!」

やってきた者はお尻を押さえた。状況から大したことはなく、場の空気と光秀奈はやがて落ち着いた。

「誰、あたしを助けてくれたのは。・・・まさか。」

光秀奈の瞳に映っていたのは信永だった。


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