【第二章】第四十五部分
(ふふふ。このまま、うまくいくと思ったら大間違いだよ。なんせ、あの患者椅子は、座り心地をビミョーに変えてあるからね。上様の最も嫌いな角度にセッティングしてあるから、やがて上様はイラついて、デートからリタイアさせるという計画なんだよ。)
そもそも患者椅子は日吉がかつえから借りてきたものであった。高価な患者椅子を日吉が購入するのは無理である。
案の定、患者椅子からガタガタという音と振動が伝わってきた。信永が貧乏ゆすりを始めたのである。
(このままでは休憩で1回果てるどころか、織田信永様に逃げられますわ!・・・という風に慌てると豊島区ナースが思ってらっしゃるなら、ワタクシを甘く見てますわ。ワタクシは、ピンチをチャンスに変える女ですから。)
「織田信永様、この揺れは腰振りの運動不足によるものです。ワタクシがお手当てして差し上げましょう。」
「たしかに最近椅子に座りっぱなしで、運動が足りないような気がしてたんだ。」
「そうでしょう。ならばワタクシが診察をいたしましょう。」
危蝶はやや難しい顔をしながら聴診器を構えた。周りの空気が少し重くなった。
「でも斎藤くんは医者ではなかろう。」
(ほらほら、聴診器はおねいさんの専売特許なんだよ。そちらの算段通りに、事は進まないさ。)
「くっ。根本的なところで道が塞がるとは。」
危蝶は唇を噛み締めた。
しかし、信永の胸にはしっかりと聴診器が当てられていた。
なぜ?突然浮かんだ疑問の答えに、かつえは瞠目するしかなかった。
危蝶は聴診器を信永の耳に取り付けて、自分を診察させていたのである。自分で自分を診るのは資格もへったくれもない。
さらに危蝶は信永に追い討ちをかけた。
「織田信永様、お手当ての時間でちゅわよ~。」
突然の幼女言葉に、信永はイラツキを募らせた模様。
「そう。興奮した方が、血流が増えて毒の回りが早くなるのですわ。この毒を仕込んだ聴診器で、チョチョイのチョイスと。さあ、これで3分待てばっと。」
危蝶の勝利が目前となった。
しかし、信永の様子は普段と変わらない。
「あら、この毒は5分型だったかしら。」
10分経過しても変わらない。
「まさか、毒を間違えた?そろそろ、診察を終わらせたらどうだ。次の患者が待ってるぞ。」
当然そんな患者はいない。
「上様に毒は効かないよ。」
かつえが、カエル跳びで飛び出してきた。




