【第二章】第四十二部分
しばらくして信永は戻ってきた。少々埃をかぶっている。
「あ~、ちょっと疲れたな。あの寺はなかなか強かったからな。」
額に汗しているところを見ると、本当に寺を滅亡させたのか?真実は藪の中。
信永は公衆トイレをしげしげと眺めていた。
危蝶はこの人もこんな視線を見せるんだ、と物思いに耽る信永のレア顔を見て、不思議と心が休まるのを感じていた。但し、信永が見ているのは公衆トイレであることは残念である?
「そう言えば昔こんなことがあったな。うちの屋敷のトイレでひと騒動があって、ちょっと痛い思いをしたんだよな。」
(あら、この人、昔話を始めましたわ。わりと年寄りくさいところもあるのかしら。うふ。)
危蝶は初デートの緊張感からすっかり解放されて、清々しい気持ちに包まれていた。
「あのうさぎ跳びは別に面白くはなかったが、スゴいやる気を感じたんだな。ギャグに限らず、魂が入ったものは自分を鼓舞するだけでなく、見たものに感動を与える。オレは勇気をもらった。あいつにギャグセンスが本当にあったどうかはわからない。でもセンスよりも気持ちが大事だ。気持ちの大きさを感じたんだな。それが可能性という才能なんだよ。」
(ウチが信永様に褒められてる?ウソやろ!)
日吉は古い円筒型の郵便ポストの陰に隠れて、一部始終をガン見している。信永の予想外の言葉に戸惑い気味である。
「あいつは作業用の白いツナギを着てたな。ギャグをやるなら、もっと派手な衣装を着た方がいいんだろな。」
(だから、ウチは魔法少女モンスターになったら、青のりをかけたたこ焼コスにしてるんやから。普段もこのたこ焼きツインテやし。むう。)
ちょっとむくれて頬を膨らませた日吉。完全に怒っているわけではないところが、なかなかかわいい。
「あれから、あいつは屋敷からいなくなった。そして、今もスゴイ努力をしているみたいだしな。いつかギャグセンスが花開く時がきっと来るだろうな。」
(ウチを褒め殺ししようとは、信永様、いい度胸しているやんけ。)
日吉の頬は桃色を越えて、サクランボに変わっている。
「お笑い芸人として大成した姿を、一度見てみたいような気もするな。」
(信永様はウチの実家のカタキやで。妙な気持ちになったらあかんのや。ドキドキ。)
日吉にはこれまでの信永へ思いとは別の気持ちが頭をもたげてきた。
(もしかしたら、ウチは信永様のこと、す、す、すきープレイヤーと思っているんちゃうか?信永様のどこがスキープレイヤ―やねん!)
日吉はひとりボケツッコミに埋没した。




