【第一章】第六部分
演題に立って、恒例の新入生歓迎の挨拶をしていたのは生徒会長の織田信永である。本来なら入学式時点での生徒会長は3年生だが、信永は優秀さと織田石油グループという家柄で、2年生ながら生徒会長に就任していた。
「いつかあの人類と、あんなことや、こんなことや、ひょっとしたら、ソンナコトまで、できたらなあ。そして一線越えたら、殺してもらうの。これがいわゆる『初恋+初殺され』ってイベント?ああ、あたしにも売る春が来たんだ、大儲けだよ!」
『殺され』は、常に初であり最後でもある。また安易に春は売るものではないし、正式な流通マーケットは存在しない。人付き合いが皆無なので、生徒を人類というカテゴリーにしか分類できない光秀奈。ましてや男女交際となると、偏見に満ちた知識しか保有していなかった。『キスすると妊娠してしまう』という教えを中学2年まで遵守していた。ゆえに、一度体感した恋心は強固なものとして、光秀奈の行動理念を支配した。
入学式が終わり、ルーティンとして誰とも会話せずに帰宅した光秀奈。自分の部屋での妄想トレーニングに励んでいた。
「どうしたら、信永生徒会長に会えるんだろう。学校じゃ、生徒会室にいるんだろうけど、1年生がいきなり生徒会室に入るわけにはいかないし。」
この日に帰宅した後、先祖の明智光秀に願いを立てた光秀奈は、その数日後のコスプレイベントでベタな出会いを期待していた光秀奈。すでに百人規模のコスプレ会場に魔法少女コスでやってきていた。
背中に大きな白い桔梗型のリボン。プロペラ機に見えないこともない。ピンクをベースに、ふんわりした半袖から伸びた細い手には、純白の手袋に飾られている。膝上20センチの赤いスカートは、裾が逆さ傘のように広がって脚をきれいに見せている。
個性派揃いのコスプレイヤーの中でもちょっと異彩を放っているのは、腰に付けた大太刀とカブトムシ型の黒い帽子である。帽子の真ん中には、やはりカブトムシの、ゆるキャラっぽい桔梗紋が描かれている。
顔は隠していないのだが、魔法少女に変身しているという自覚が光秀奈の心を解放していた。
ここからは、ボジティブで強気な光秀奈のターンになるはずである。
「願いが効いたなら、いや効いてるはず。だから、ここに信永会長が来ることは決定された近未来だよ。魔法少女モンスターにはなってないし、そこはひとまず安心だね。さあ、願い、願いっと。」
光秀奈は参加者百人規模の会場を睥睨した。
「あそこに強烈な光を感じるよ。さすがご先祖様のお願いね。信永会長~、捕まえた、抱きっ!」
大胆にも信永をハグッた光秀奈。
「あれれ?信永会長。動かないよ。あたしに抱きつかれて緊張してるんだね。かわいい。」
「ちょっと、あなた。会場のオブジェに触れてはいけないよ。」
警備員に容赦なく引き剥がされた光秀奈。
光秀奈が捕まえたのは、信楽焼のタヌキだった。




