【第二章】第二十六部分
「ウチの体温が信永様のお気に召したら、幸いや。」
信永は無言で指定席に着座した。
(チャ、チャンスや。最高のギャグをやったるで。)
「おい、クッションとしてはちょっと柔らか過ぎるかな。」
信永はわずかに背中を震わせた。
「おっと、これは失礼しましたわ。」
日吉は言葉とは違って、患者椅子に座ったまま動いていなかったのである。
「ギャグはスベってへんけど、イマイチ受けてないようやな。もっとボケなあかん。」
「でも背中では相応の弾力と感触が得られたぞ。」
「か、感触!?カーッ。」
湯沸し器のように、頭から湯気を出した日吉はダッシュで、患者椅子から飛び下りた。
「これは上手や、上手投げやりや!」
日吉は相撲の上手投げをしながら、やり投げのポーズに続けた。
「なかなか器用だな。」
「これのどこが供養やねん!ナンマイダ~。」
「笑えないが、ギャグセンスはあるのかな。」
信永は眉をピクリとも動かさない。
「これは難攻不落の強敵やな。ちょっとや、そっとのギャグじゃ殺されへんで。最高最大のギャグが必要や。でもその前に、信永様への恨みは、いやウチの実家を潰しておかんを死なせたことだけは、言っておかんとな。・・おかん。うっ。おかんのことを思い出して、泣けてきた。うわ~ん。」
いきなり涙腺が大崩壊した日吉。しかし、わざとらしさは見え見えである。
「おい、スリッパ取り、いったいどうしたというのだ。」
信永は無表情のままで、少し背中を上げて、日吉に視線を送った。
「今や、最大のギャグをぶつけてやるで!」
ウソ泣き日吉は、浴衣の前をはだけて、両手を上からVの字に下ろした。
「コマネチ!」
今は誰も知らない一発芸を披露した日吉。
「ウ、ウ、ハハハ~!」
「受けたで、やった~!でも、その前にスベッていたのかもや~!」
次の瞬間、日吉の歓喜は音を失っていた。もちろん、日吉のからだもそこには無かった。




