【第二章】第十三部分
「すべてはおかんの人生のためや。」
「おかんの人生?」
「そや。おかんたちも人生をエンジョイしたいんや。遊ばなあかんのや。パチンコや競馬、ホスト遊び、やりたいことに限りはない。」
「おかんは、遊ぶお金のために銀行から借金したということ?」
「それは違うで。おかんは、銀行から借入なぞしとらん。これでも経営者や。」
「そりゃ、良かったわ。安心や。」
「借金してんのは、日吉の方や。」
「ウ、ウチが借金?おかん、まさか、ウチを借金のカタに売り飛ばしたんかい?」
「そんなアホなこと、するかい!日吉はおかんの大事な娘や。売ったりなんかせえへん。」
「そうやな。やっぱりウチのおかんや。じゃあ、借金っていったい何や?」
「借金は日吉が生まれてから、おかんが育てた育児・教育費用や。これからも学校卒業するまでは日吉はおかんから借金をし続けてるんや。ほら、今この畳の上にいるだけで、家賃・畳の消耗費・光熱費がかかってるで。日吉はこの家で生きてる限り、おかんに借金をし続けるんや。ガハハハ~。」
「お、おかん。ウチはおかんのために頑張ってるのに。」
「ははは。ウソやウソ。おかんが日吉にそんなひどいこと、するわけあるかいな。」
「なんやボケただけかい。ウケへんかったけど、さすがナニワのおかんやな。」
「ウソついて悪かったな。借金はホントにしてんのや。日吉は未成年やから連帯保証人になれへんけど、成人したら債務者になるいう、念書を銀行に入れてんねん。銀行言うても、病み、いや闇という冠詞が付いてるけどな。ガハハハ。」
「お、おかんのアホ~、ひとでなし~!うわ~ん。」
泣きの涙の日吉は、その日以来、商店街のアーケードをくぐらなかった。
家出した日吉は、織田家専属の靴磨き業者として勤めることとなった。
日吉は靴磨きだけでなく、寒い日はさりげなくカイロで靴を温めて、屋敷のメイドたちにその気配りに好評価を得ていた。
しかし日吉は靴磨き業者としての生き残りに必死だっただけであった。日吉は屋敷の庭に置いてある椅子やベンチなども温めていた。
ある時、庭のトイレスリッパを暖めようとした時のこと。
「庭の簡易トイレ言うても、普通の一軒家よりデカイんやから。ウチの捨てた実家の合計面積より広いで。これが格差社会なんやなあ。なんか悔しいなあ。」
ぶつぶつ言いながら、日吉は使用中でないことを確認して、トイレのスリッパを取り出した。濃い茶色の本皮作りで、完全抗菌防水仕様で、織田木瓜の家紋が光っている。日吉は御曹子である信永の顔は知っていた。
「今日も信永様のため、スリッパを温めておりました。」
「うむ。」
過去に実行された会話はこれだけであった。
「信永様はぜいたくや。スリッパ言うても、ウチの履いてるローファーよりはるかに高級な素材やで。くそ、こうしてくれる!」
日吉は作業用の白いツナギの胸ジッパーを開いて、さして肥沃ではない腫れ物に押し付けた。




