【第一章】第一部分
あたしはハイパーゴミ人間。頭悪い、勉強できない、運動オンチ、音楽・美術苦手、料理も不得意。加えて天然。当然のように友達いない。
あたしは、裏切りの申し子、明智光秀の子孫で、あたし自身、自分の人生の裏切り者。生きているだけで、空気を吸っているだけでムダ。すぐにでも死にたい。
でも、死ぬならば、せめてプレゼントをもらってからにしたい、最後にして最大の自分へのプレゼントを。それは、大好きな人に盛大に殺してもらうこと。だから、王子様を探して大好きにならないと。殺されたいというロードマップ作りは大変なんだよね。
こんなあたしが、とあるコスプレイベントで、憧れの織田信永様に会って殺してもらえるよう、星や神様に、お願いしたけどダメだった。
何か打開策がないかと、インターネットを調べると、『徳川葵ヘゲモニー』いう相談サイトがあったの。誰でも登録できて簡単なお願いを叶えることができるけど、由緒ある家系に限り、先祖へ特別なお願いができるというのがあったんだよ。
『ここでは孫属性となります。ご注意ください。つまり、先祖をおじいちゃんと呼んであげると、いつかきっと願いが叶います。』というものだった。
「だから、おじいちゃんお願い。信永様に会わせて。」
『ヒューヒューヒュー』
サイトから奇妙な音が発せられたと思ったら、老人の声が聞こえたんだよ。
パソコン画面には、水戸黄門のような山吹色の安っぽい和服姿の白髭老人が、映された。
『初めましてじゃのう。ワシは光秀奈の超祖父の明智光秀じゃ。』
「ええっ。本当にご先祖様なの?迷惑メールかウィルスじゃないの?」
『ワシはホンモノじゃ!』
「ニセモノの常套句だね。ワシワシ詐欺かもしれないし。」
『自分で召喚しといて、なんという無礼な態度じゃ。アタマに来たから帰るわ!』
パソコン画面上の明智光秀は、ぷいと背中を向けた。背中には明智家の家紋である、桔梗が見えた。
「これって、ホンモノっぽい。」
パソコン画面の下にも、『これは真正なるものです。』とテロップが表示されている。世の中に、自分で真正、本物、元祖とかいうものに限って、たいていニセモノである。
『かわいい孫のためじゃ。一肌脱ごう。この日のために、新調しておいたんじゃ。とくと見よ!』
明智光秀はいきなり純白の褌姿になった。
「そんなの、見せなくていいから!」
手のひらで顔を覆った光秀奈は、指のスキマを拡大して、褌のわずかに盛り上がった部分を凝視した。いちおう、先祖の期待に応えた格好である。
次の瞬間、明智光秀は消えて、パソコン画面はサイトに戻っていた。事務的な文字がディスプレイに広がっていた。
『あなたの願いはご先祖様の助力で叶います。しかし、当然代償は頂きます。タダではありません。タダより高いものはありませんから。【魔法少女モンスターGOO!】というゲームをご存じですか?カンタンです。魔法少女モンスターになるだけですから。』
すぐさま光秀奈は画面に反応した。
「魔法少女モンスターGOO!って、魔法少女がモンスターで倒されるやつじゃない?」
『ご存じであれば話は早い。画面下部の【YES】をクリックしてください。』
「そんなの、危ないに決まってるから嫌よ。」
『ではこちらを御覧ください。』
GOO!をしている信永が映された。
「ポチッ。やっちゃったよ。どうしよう。」
当然ながら、この信永はニセモノである。光秀奈はこの点だけは騙されたのである。