【第一章】第十八部分
「あれ?あたし、さっきまで何してたんだっけ。」
「明智さん。次の文章を呼んでください。」
光秀奈は教室にいて、現代文の授業で、赤いメガネの女教師から指名されていた。わけがわからず慌てて、席の椅子から立った光秀奈。
「えっ?どうなってるの。何がなんだかわからないよ。こ、ここは教室ということ?・・。ま、眩しい!今は授業中!?」
異常なほどの、強烈な太陽光の刺激で、冷静さを取り戻して自分の状況を瞬時に判断した光秀奈。
「ほら、ここ。これを読んで。」
隣に座っている金髪ツインテの女子が、教科書を光秀奈に手渡した。
「男女ふたりがシワの寄ったベッドで、向かい合っているが、オンナはうつ向いている。たけしはアケミのアゴを引き上げて、自分の顔を強引に見せつけた。たけしは汗ばむ手でアケミの両足を広げて、肉」
「ちょっと、明智さん。何を読んでいるの?」
教師は上気して、光秀奈の読書にストップをかけた。
光秀奈は生徒会に呼ばれ魔法少女になって、警察官とゲームの途中で記憶が切れて、いきなり授業で当てられていたという状態である。
「す、すみませんでした!」
大恥をかいて、意気消沈で腰を下ろした光秀奈。
『ブーッ、パパパパッパパ~!』
豪快なオナラの音が教室に響き渡った。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「アハハハ~!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
思わず笑いこけるクラスメイトたち。むろん、それはブーブークッションの音である。あとに続いたのは、競馬のファンファーレである。
「何をあたしに読ませたのよ。ひどいじゃない!」
隣席の女子に、小声でクレームを付けた光秀奈。人懐っこい目は金色、鼻は自負心が強いのか、やや大きめである。小顔で、子ザルのような愛嬌がある。
「やっと、話しかけてくれたな。入学式の日から二日経ってるのに、あんたからは、ひとことも声かけがなかったんやもんな。」
「そ、そんな。あたしが話さなかったから、ワザとやったってこと?」
「そういうことや。それにしても読書のシュミ、ディープやなあ。」
光秀奈は官能小説を手にしていた。本の表紙には実に艶かしいオンナが指をくわえて、読者を挑発している。
「うわぁ。何これ、バリコレ!?」
バリコレ!?とは何これ!というフレーズの最上級である。
「わはは。これはウチからのあいさつ代わりや。家で夜に眠れん時に、ごっつうええ睡眠薬になるで。」
「なるかっ!すぐに捨ててやるよっ。」
「おう。怒るとけっこう元気やないか。それがええ。」
「あっ。たしかに元気になったかも。」
「そうや、それがいちばんやな。ウチは羽柴日吉や。よろしゅうな。」
「顔はわかってたけど、名前は把握してなかったよ。」
「ひどいオンナやな。暗い顔してたから景気をつけたったんや。それより、昼ご飯を一緒に食べようやないか。ウチのは、ヒノマル弁当や。」
「えっ、今時そんな弁当を?あんたの家計、大変なの?」
「そうや、お金のやりくりは厳しいで、ウチの家はいつも火の車や。やから毎日、『火の丸弁当』。」




