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RINと友達(2005)  作者: 瑞城弥生
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「佐伯倫子さん。何かサークルに入ってくださいな」


 学級委員長の須藤知佳はきちんとミチコと発音してから、二枚のプリントを机に並べた。知佳の父親は小さな建築設計事務所を開いていたが、隣町の須藤家と言う由緒正しき家柄の出身で、国内でも有名な建築設計士だった。如月女子大の情報学部棟の設計が評価され、建築設計士としては最高の賞を何回か受賞している。

 成績も優秀な須藤知佳は、ランク的に考えても私より遥かに上に位置していた。学年でもトップクラスだろう。だから委員長なんて事をやっていた。


「部活動しないといけない事は、ご存知ですね」

「はあ」


 国の方針で高校生は必ず何かの部活動に参加しなければならない。国家公務員特別職の父を持つ私が、その方針を無視するわけには行かなかった。だから今までは団体行動の必要が無い部活を選んで適当にサボったりしていた。そもそも仲間と一緒に何かをしようというのは、私にとってはありえない事の一つだったのだ。


「知佳さんは?」

「私は文芸部です」


 見た目で人を判断するのは良くないけれど、知佳に小説はよく似合っていた。それはいかにも小説を書いてますっていう見た目から来る偏見だけど、的は得ていた。


「書いたりするの? 小説」

「ええ、少しだけ」


 まさかやおいではあるまいな。知佳の顔が赤くなったので、少しだけ下賎な事を考えた。

 文芸部なら基本は個人活動だろうからいいかなとは思った。だけど良く考えたら私は本をそう多くは読まないし、ましてや書こうなど思うはずも無く、それは断念した。

 知佳に渡されたプリントは活動中のサークルが一覧表になっているものだった。合気道部、アニメーション研究会、映画研究会……。どれもいまいちだ。体育会系は疲れるし、団体行動は苦手だったから自ずといくつかに絞られる。まじめにやる気も無かったし、どうせすぐに転校してしまうんだから、一番楽なのにするつもりでいた。

 リストを指でなぞっていくと、白鳳院流柔術部の下に目的のものを見つけた。


「これ」

「パソコンなんかするのですか?」


 須藤知佳の反応は、期待を裏切らなかった。よく言われるし、信じてもらえないけれど、パソコンは得意だった。


「ええ、少しだけ」

「ホームページなんか作ったり」

「一応は」


 匿名だけれど「ブログ」と呼ばれる日記のようなものを暇つぶしにやっていた。バイトでWEBデザインをやていった事もある。今はやってないけれど。


「じゃあ、パソコン同好会に登録しておきますので、放課後コンピューター教室に直接顔を出してください。今日は活動日のはずですから、誰かいると思いますよ」


 知佳が言い終らない内に、聞きなれた声が聞こえてきた。


「リンコさん、サークルは決めたんですか」


 葉月が背後霊のように知佳の後ろから顔を出したので、知佳は驚いて飛びのいた。


「何ですか葉月さん」

「ごめんなさい、脅かすつもりじゃなかったんだけど」

「今後は気をつけてくださいね」


 知佳は叱り付ける口調で言ってから自席に戻った。


「相変わらずね、本家さん」


 彼女以外の全員が知佳を「本家さん」と呼んでいる。本家の娘はこのクラスでは彼女だけだったからだろう。知佳もそれに気付いていたけれど無視していた。言いたい奴には言わせて置けと言う事なのだろうか。それにしてもそう言った貫禄は確かにあった。


「何処にしたんです」

「パソコン同好会だけど」

「パソコン?」


 葉月が手をあごに当てたまま不満げな顔をした。


「あの、何か?」

「あ、ごめなさい。なんだか想像できなくって、ねえ」


 須藤知佳に続いて吉村葉月にも言われてしまった。桐華京子も頷いている。でも、よく言われる事だからもう気にしてはいない。


「何処のメーカーのを使っているの」

「もちろんトーカですよね」


 それが世界の真実であるかのような笑顔をしている京子がそこにいた。


「オリジナル、です」


 あんまり言いたく無いけど、トーカのマシンは苦手だった。トーカのOSは重いし、良く固まった。今はだいぶ改良され、補償もついているから問題は無いんだけど、初期バーションで痛い目にあったから信用していない。それに不必要な機能が多すぎた。


「自分でパーツを買ってきて組み立てるんです」

「へえ」


 葉月と京子は、感心と呆れの混ざった表情で相槌を打った。

 パソコンを自分で組み立てる物好きは、自分の周りにはそういなかった。このお嬢様学校ならなおさらだろう。二人の表情から、パソコンを組み立てるという事自体を、全く理解できていないように思えてきた。

 だから私は、パソコン同好会にも大した期待はしていなかった。

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