めちゃくちゃ勘違いされたような気がするが、そのままにしておくか
「おや……?」
ふいに、男の視線が俺に据えられる。どうやら俺とミュウとを交互に見やっているようだ。
……待ってくれ。
なんかすげぇ面倒くさいことに巻き込まれそうなんだが。
「あなた。ここらでは見ない顔ですね。もしかして……同業の方でしょうか?」
ほらきた。
絶対目をつけられると思ったぞ。
「…………」
内心でため息をつきつつ、俺は男を見上げる。
――裏社会で店を経営しているだけあって、この男、かなりの風格を漂わせているな。一見すると誠実そうに見えるのだが、芯からにじみ出る圧倒的な強者感がすさまじい。
まあ、俺はこれでも元冒険者で、最強ギルド《火焔の煌めき》に属していた身。
これくらいの圧はどうってことない。
一方で、ミュウのほうは完全に怖じ気づいちまっているようだな。俺の身体に隠れるようにして、ぶるぶる震えている。
……それにしても、気のせいだろうか。
この男、どこかで見たことあるような……?
「…………」
「…………」
俺と男はしばらく無言で視線を交わし。
そして数秒後、男がふうと肩を竦めた。
「……なるほど。いくつもの修羅をくぐり抜けてきた目をしておられますね。素敵な方に出会えて嬉しい限りです」
「それはどうも」
「ですが、同業を調べるならもっとスマートにやっていただきたい。見てくださいよ。私の奴隷たちが動揺しているでしょう」
……たしかに。
男の立場からすれば、ある意味これは営業妨害だもんな。
奴隷に優しい飼い主を演じて、店員たちの動揺を誘い、労働の志気を低下させる――
もしくは、俺が奴隷を引き抜きにきた可能性も疑われるわけか。
つまり、男が警戒するのは至極もっともだ。
これに関しては仕方ない。
この店が奴隷を運用しているとは知らなかったとはいえ、結果的には俺のミスである。
だが俺の脳裏には、どうしても男への既視感が貼り付いていた。
「おやおや。だんまりですか」
俺の沈黙をどう思ったか、男がしびれを切らしたように眼鏡の中央部を抑える。
「本当に営業妨害なのであれば……わかっていますよね? 私はそんなに生易しい人間ではありませんよ?」
「ご主人様……ごめんなさい」
ミュウが不安そうに俺を見つめる。このスイーツ店に来たことを後悔しているという顔だ。
と。
俺の記憶に、やっとある人物像が蘇った。
「そうか……思い出しました」
「は?」
「ロアーヌ・バンドアロスさん。雰囲気が似ていると思いましたが……見た目でもいじってますか?」
「っ……!!」
男の表情が一瞬にして歪められる。その後、「しまった」とでもいうように真顔に戻ったが、さすがにもう遅い。
どうやらビンゴだったようだな。
――ロアーヌ・バントアロス。
世界的に指名手配されている極悪人で、冒険者ギルドでも似顔絵が貼り出されていたのだ。
犯罪はそれこそ多岐にわたる。
殺人、強盗、強姦……数え切れないほどの罪を犯し、王国軍からも目をつけられていたはずだ。
似顔絵ではそれこそ三白眼の極悪人のように描かれていたが、なんらかの手段を用いて外見を変えたのかもな。似顔絵とは似ても似つかぬ風貌だから、気づかれないのも無理はない。
……まさか、この裏通りに潜伏していたのは予想外だったけどな。
「…………どうしてそれを」
数秒後、男からそれだけを訊ねられた。
冒険者ギルドでみんなのサポートに徹するべく、必要な情報はすべてかき集めていた――というのが真実。
だがこの裏社会で、自身の素性を明かすのは得策ではあるまい。
「……さぁ、どうしてでしょうね」
「く……」
男――ロアーヌが悔しそうに歯噛みする。
「あなた……ただ者ではありませんね……」
「いえいえ。そんなことは」
なんだか盛大に勘違いされたが、これも裏社会を生き抜くうえで必須だろう。とりあえずそのままにしておく。
「……なにが欲しいんです?」
「は?」
「黙っていただければ、あなたのご希望に沿うものを差し上げますが」
「……気にしないでください。俺からあなたの素性をバラすことはありません」
ロアーヌの視線がぴたりと俺に据えられる。
「……なぜです?」
「そういうものでしょう。この世界というのは」
もちろん、ただの《知ったか発言》だ。とりあえず舐められないことが最優先だからな。あと、こんな面倒な奴とは正直関わりたくない。
「なるほど……わかりました」
しかしロアーヌはなにを思ったか、またも苦い顔をするのだった。
「それでは、私はこれで失礼します。いまの件、くれぐれも内密にお願いしますよ」
「もちろんです」
最後に俺がニヤリと笑うと、ロアーヌはやっと立ち去っていった。
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