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6/7

あれが正しい奴隷の扱い方か?

「いらっしゃいませ、ご主人様!」

「……な、なんだここは……」


 裏通りのケーキ店。

 そこに足を踏み入れた途端、いきなり大人数で出迎えられた。

 しかも全員、奇妙な服を着た美少女だ。よくわからないがフリフリとした衣服を身にまとい、しかも露出度が相当に高い。


 俺たちには明らかに浮いた場所である。

 これは店選びを間違えたか……?


「うわー!」


 一方のミュウは目をキラキラ輝かせるばかり。その視線は客の食べているケーキに注がれている。


「おい……本当にここでいいのか?」


「はい! ケーキ、とっても美味しそうじゃないですか!」  


「…………」


 駄目だ、本当になにもわかってない。


「お待ちしておりました、ご主人様♡」

「おおっ!」


 店員が急に腕を絡ませてきた。

 当たってる当たってる。

 これも店独自のサービスなのだろうか?


 俺が戸惑っていると、店員が思わぬ質問を投げかけてきた。


「今日は一名様・・・のご来店でよろしかったでしょうか?」


「ん? いや……どう見ても二人だろ?」


 ミュウはずっと俺の隣にいるぞ。

 どうしてこんな誰でもわかるミスをするのだろうか。

 まあ、正確には二人と一匹か。


「え? でも……そちらの方って……」


 俺の指摘に、店員は困惑の声をあげる。


 ――なるほどな。

 おおかた、ミュウのことを奴隷かなにかだと判断したのだろう。だから彼女のことをカウントしなかったんだな。


「彼女は俺の大事な連れだ。普通に対応してくれないか」

「え……大事な……?」


 店員が目が大きく見開かれた。


 気のせいだろうか。

 店員に《羨望》という感情が浮かんでいた気がするのは。


「失礼しました。……それではご案内しますので、こちらへどうぞ」


 だがそれでも、すぐに笑顔に戻ったのはプロ意識のたまものだろう。店員は快活な笑みとともに、俺たちをテーブルに誘導してくれた。


「ご主人様……」


「ん……?」


 ミュウの全身がまたも淡く輝く。またテイムが成功してしまったようだが、それほどのことを言っただろうか?


「どうした、ミュウ」

「い、いえ。なんでもありません!」


 顔を真っ赤にするミュウ。

 なんだ、変な奴だな。


「お待たせしました! こちらメニューになりますぅ!」


「おお、きたか……」


 当たり前だが、どれも割高だな。表社会の倍近くはかかるのではなかろうか。


 ……まあ、仕方ないか。


「ほら。好きなの選べよ」

「ほ……本当に、いいんですか……?」

「今更なに言ってんだ。腹いっぱい食えよ」

「うぅ……ご主人様、ありがとうございます……!」 


 泣きながらミュウが指定したのは、バナナチョコケーキ。他にも店員とのツーショットつきの食事とか色々あるみたいだが、今回はスルー一択である。


「おいしくなーれ! せーいっ」

「萌え萌えキュンキュン」


 ……他の客は割とそういうのを楽しんでそうだな。むしろ普通の食事をしにきた俺が異質なのか。


 今度、普通の飲食店を探しておかないとな。いくら裏通りとはいえ、まったくないわけじゃあるまい。


「お待たせしましたぁ~」


 そんなことを考えているうちに、店員がやっとケーキを持ってきてくれた。


 バナナチョコケーキ特大。

 俺とあわせて食べるため、これのみの注文だ。


「わぁ……!」


 それを見た途端、またもミュウが目を輝かせる。例によって耳もピーンと跳ねているな。


「こ、これ……ほんとに食べていいんですよね……?」

「ああ。遠慮するな」


 いったい何度目の質問だろうか。

 これだけでも、彼女が相当過酷な状況にいたことが推察されるな。


「わっ、わっ……」


 慌てながら小皿にケーキを取り分けるミュウ。だがぐちゃぐちゃで全然なっていない。相変わらず耳が立っているので、きっと興奮しているんだろうな。


「いいよ。俺が取り分ける」 


「え……」 


 ミュウの戸惑いを制し、俺はケーキを切り分ける。


「え…………」

「嘘……?」


 なんだろう、店員たちがちらちらこっちを見てくるな。

 たしかに奴隷にここまでするのはおかしいかもしれないが……そんなに驚くことか?


 よくわからないが――ま、いっか。


「ほれ、リオ」


 もちろん、リオの食事分も忘れない。この犬狼はチョコが大好きなので、チョコ配分を多めにしておく。


「ワン♪」


 俺がチョコの切れ端を渡すと、リオは嬉しそうにそれを受け取った。


「ほれ、おまえの分だ」


「あ、ありがとうございます……!」

 震える手で皿を受け取るミュウ。

「……あの、私、なんにもできないポンコツですけど……! ご主人様のために色々覚えます……!」


「はは……そっか」


 なんかやる気出してくれたみたいだな。

 俺としても正直助かる。


「それじゃ、いただきます」


 俺たちは合掌し、二人してケーキを頬張る。


「…………!」

 途端、ミュウの目が大きく見開かれた。

「ぐず……」

 彼女の瞳に涙が溜まる。

「ぐず……ぐず……」


 よほど感動してるんだろうな。なにも言わず、ただひたすらにケーキを食べ続ける。


 ……彼女の境遇はわからない。

 けど、やっぱり相当に辛いことがあったんだよな。親に捨てられて、なりたくもない奴隷にさせられて……そんな彼女の境遇を思うと、こっちまで泣けてしまう。


「ミュウ。俺はもういいから、残りは全部食え」

「えっ……で、でも」

「いいんだよ。俺はそんなに腹減ってないからな」

「ご主人様……」


 感動したように俺を見つめるミュウ。

 なんだろう。

 またしても、店員たちの視線が刺さるような……


 と。


「あ……!」


 そんな店員たちが、いっせいに背筋を伸ばした。さっきまでとは比べ物にならないくらい緊張している。


 その原因は……いま来店した男か。

 高身長。痩身。黒縁メガネ。

 一見すると優しそうな青年に見えるが……店員たちの様子が明らかに変わった。いったいなんだ……?


 男はしばらく店内を見回し、ふいに店員のひとりに声をかける。


「おい」

「は、はいっ……!」

「なんだその固い笑顔は。勤務外は常に表情トレーニングしろと言っただろうが」

「も、申し訳ありません。これでも精一杯やってまして……」

「言い訳は無用。退勤後、指導部屋に来い」

「…………っ!」


 店員は悲痛な表情を浮かべる。


「なんだ。不服なのか? 奴隷の分際で」

「……いえ。承知致しました」


 奴隷……

 そうか。

 そういうことだったのか。


 このスイーツ店は、あの男が経営しており――店員たちはみな奴隷なのだろう。そして男の態度から察するに、相当ひどい扱いを受けてきたに違いあるまい。


 俺のミュウに対する態度を見て、店員たちが驚くのも無理はない……


 そしてここ裏社会では、こういう修羅場は日常光景みたいだな。

 あんな胸くそ悪い場面を、客たちは平然と見過ごしている。


 と―― 


「こほん。お客様にはお見苦しいところをお見せしました」


 男はさきほどまでの態度を一転させ、僕たちに頭を下げた。

 さっきまでと違い、柔和そうな表情を浮かべている。


「これからも当店ではお客様のためにサービス向上に努めて参りますので、何卒よろしくお願い致します」


「…………」


 俺はなんとも言えない気持ちになった。


 あれが……奴隷商人ってやつなのだろうか……?




 

  

 


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