あれが正しい奴隷の扱い方か?
「いらっしゃいませ、ご主人様!」
「……な、なんだここは……」
裏通りのケーキ店。
そこに足を踏み入れた途端、いきなり大人数で出迎えられた。
しかも全員、奇妙な服を着た美少女だ。よくわからないがフリフリとした衣服を身にまとい、しかも露出度が相当に高い。
俺たちには明らかに浮いた場所である。
これは店選びを間違えたか……?
「うわー!」
一方のミュウは目をキラキラ輝かせるばかり。その視線は客の食べているケーキに注がれている。
「おい……本当にここでいいのか?」
「はい! ケーキ、とっても美味しそうじゃないですか!」
「…………」
駄目だ、本当になにもわかってない。
「お待ちしておりました、ご主人様♡」
「おおっ!」
店員が急に腕を絡ませてきた。
当たってる当たってる。
これも店独自のサービスなのだろうか?
俺が戸惑っていると、店員が思わぬ質問を投げかけてきた。
「今日は一名様のご来店でよろしかったでしょうか?」
「ん? いや……どう見ても二人だろ?」
ミュウはずっと俺の隣にいるぞ。
どうしてこんな誰でもわかるミスをするのだろうか。
まあ、正確には二人と一匹か。
「え? でも……そちらの方って……」
俺の指摘に、店員は困惑の声をあげる。
――なるほどな。
おおかた、ミュウのことを奴隷かなにかだと判断したのだろう。だから彼女のことをカウントしなかったんだな。
「彼女は俺の大事な連れだ。普通に対応してくれないか」
「え……大事な……?」
店員が目が大きく見開かれた。
気のせいだろうか。
店員に《羨望》という感情が浮かんでいた気がするのは。
「失礼しました。……それではご案内しますので、こちらへどうぞ」
だがそれでも、すぐに笑顔に戻ったのはプロ意識の賜だろう。店員は快活な笑みとともに、俺たちをテーブルに誘導してくれた。
「ご主人様……」
「ん……?」
ミュウの全身がまたも淡く輝く。またテイムが成功してしまったようだが、それほどのことを言っただろうか?
「どうした、ミュウ」
「い、いえ。なんでもありません!」
顔を真っ赤にするミュウ。
なんだ、変な奴だな。
「お待たせしました! こちらメニューになりますぅ!」
「おお、きたか……」
当たり前だが、どれも割高だな。表社会の倍近くはかかるのではなかろうか。
……まあ、仕方ないか。
「ほら。好きなの選べよ」
「ほ……本当に、いいんですか……?」
「今更なに言ってんだ。腹いっぱい食えよ」
「うぅ……ご主人様、ありがとうございます……!」
泣きながらミュウが指定したのは、バナナチョコケーキ。他にも店員とのツーショットつきの食事とか色々あるみたいだが、今回はスルー一択である。
「おいしくなーれ! せーいっ」
「萌え萌えキュンキュン」
……他の客は割とそういうのを楽しんでそうだな。むしろ普通の食事をしにきた俺が異質なのか。
今度、普通の飲食店を探しておかないとな。いくら裏通りとはいえ、まったくないわけじゃあるまい。
「お待たせしましたぁ~」
そんなことを考えているうちに、店員がやっとケーキを持ってきてくれた。
バナナチョコケーキ特大。
俺とあわせて食べるため、これのみの注文だ。
「わぁ……!」
それを見た途端、またもミュウが目を輝かせる。例によって耳もピーンと跳ねているな。
「こ、これ……ほんとに食べていいんですよね……?」
「ああ。遠慮するな」
いったい何度目の質問だろうか。
これだけでも、彼女が相当過酷な状況にいたことが推察されるな。
「わっ、わっ……」
慌てながら小皿にケーキを取り分けるミュウ。だがぐちゃぐちゃで全然なっていない。相変わらず耳が立っているので、きっと興奮しているんだろうな。
「いいよ。俺が取り分ける」
「え……」
ミュウの戸惑いを制し、俺はケーキを切り分ける。
「え…………」
「嘘……?」
なんだろう、店員たちがちらちらこっちを見てくるな。
たしかに奴隷にここまでするのはおかしいかもしれないが……そんなに驚くことか?
よくわからないが――ま、いっか。
「ほれ、リオ」
もちろん、リオの食事分も忘れない。この犬狼はチョコが大好きなので、チョコ配分を多めにしておく。
「ワン♪」
俺がチョコの切れ端を渡すと、リオは嬉しそうにそれを受け取った。
「ほれ、おまえの分だ」
「あ、ありがとうございます……!」
震える手で皿を受け取るミュウ。
「……あの、私、なんにもできないポンコツですけど……! ご主人様のために色々覚えます……!」
「はは……そっか」
なんかやる気出してくれたみたいだな。
俺としても正直助かる。
「それじゃ、いただきます」
俺たちは合掌し、二人してケーキを頬張る。
「…………!」
途端、ミュウの目が大きく見開かれた。
「ぐず……」
彼女の瞳に涙が溜まる。
「ぐず……ぐず……」
よほど感動してるんだろうな。なにも言わず、ただひたすらにケーキを食べ続ける。
……彼女の境遇はわからない。
けど、やっぱり相当に辛いことがあったんだよな。親に捨てられて、なりたくもない奴隷にさせられて……そんな彼女の境遇を思うと、こっちまで泣けてしまう。
「ミュウ。俺はもういいから、残りは全部食え」
「えっ……で、でも」
「いいんだよ。俺はそんなに腹減ってないからな」
「ご主人様……」
感動したように俺を見つめるミュウ。
なんだろう。
またしても、店員たちの視線が刺さるような……
と。
「あ……!」
そんな店員たちが、いっせいに背筋を伸ばした。さっきまでとは比べ物にならないくらい緊張している。
その原因は……いま来店した男か。
高身長。痩身。黒縁メガネ。
一見すると優しそうな青年に見えるが……店員たちの様子が明らかに変わった。いったいなんだ……?
男はしばらく店内を見回し、ふいに店員のひとりに声をかける。
「おい」
「は、はいっ……!」
「なんだその固い笑顔は。勤務外は常に表情トレーニングしろと言っただろうが」
「も、申し訳ありません。これでも精一杯やってまして……」
「言い訳は無用。退勤後、指導部屋に来い」
「…………っ!」
店員は悲痛な表情を浮かべる。
「なんだ。不服なのか? 奴隷の分際で」
「……いえ。承知致しました」
奴隷……
そうか。
そういうことだったのか。
このスイーツ店は、あの男が経営しており――店員たちはみな奴隷なのだろう。そして男の態度から察するに、相当ひどい扱いを受けてきたに違いあるまい。
俺のミュウに対する態度を見て、店員たちが驚くのも無理はない……
そしてここ裏社会では、こういう修羅場は日常光景みたいだな。
あんな胸くそ悪い場面を、客たちは平然と見過ごしている。
と――
「こほん。お客様にはお見苦しいところをお見せしました」
男はさきほどまでの態度を一転させ、僕たちに頭を下げた。
さっきまでと違い、柔和そうな表情を浮かべている。
「これからも当店ではお客様のためにサービス向上に努めて参りますので、何卒よろしくお願い致します」
「…………」
俺はなんとも言えない気持ちになった。
あれが……奴隷商人ってやつなのだろうか……?
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