裏社会でもふもふに囲まれる
「はあ……」
なんとか謎のバーから脱出した俺は、深いため息をつく。
商業都市オルワース。
その裏通り。
ただでさえ陰鬱な裏通りだが、あの空間はそれ以上だった。
薬に奴隷に改造種に……やばすぎだろ。
だが、それもやっと終わった。
しかも想像以上の収穫を得ることができたんだよな。
「えっと……」
俺は頬を掻きながら、獣人の女の子に目を向ける。
「これからよろしく頼むよ。名前、なんだっけ」
「ミュウ……です……」
「ふむ……」
テイムに成功したとはいえ、完全に心を開いてくれてはいないようだな。めちゃくちゃ緊張してるっぽい。
まあ仕方のないことだ。
ただでさえ彼女は最初から心を閉ざしていたからな。それがこうして、質問に応答してくれているだけでも大きな成果だろう。
「ミュウ。それじゃまず、飯食いに行こうか」
「え……? ご飯……?」
なぜかきょとんとするミュウ。
飯――という言葉を聞いた途端、頭上の両耳がピンと跳ねていた。
「あ、ああ……。どうした?」
「だって……私なんて、ゴミ以下の存在価値ですから。滅相もないです……」
と言う割には、耳がピクピク反応しているんだが。
(このわかりやすさ……おまえにそっくりだな)
(ワン!)
小声でリオをからかうと、小さい頭で頭突きされた。
痛くはない。
ただモフモフを味わっただけだった。
「ま……それはさておき」
俺は咳払いをすると、いまだに耳をピクピクしているミュウに告げた。
「本当に気にするなよ。実は腹減ってるんだろ?」
「え? どうしてわかったんですか……?」
「見りゃ誰でもわかると思うぞ」
現に、ミュウの耳はさっきより耳がピクピクしている。ものすごくわかりやすい。
「ご主人様すごい。なんでもお見通しなんですね」
いやすごくはない。
ミュウの境遇は詳しく知らないが、あまり他人と関わったことないんだろうな。頭のネジがずれまくっている。
「さて、と……」
呟きながら、俺は近くに飲食店がないか視線を巡らす。
ルメリアのおかげで、金銭面の不安がかなり和らいだからな。たかが幽霊が住んでるくらいで、銅貨一枚で住まわせてくれるんだから有り難いもんだ。
……のだが。
「そうだった……ここは馴染みの街じゃなかったな……」
ここらへんにある店といえば、居酒屋だったり女が接待するような店だったり、表とは明らかに一線を画している。そんな場所にミュウを連れていくわけにはいかない。
だが、かといって表通りに行くのもなぁ……
こう言ってはなんだが、現在のミュウはかなりみすぼらしい。まず間違いなく好奇の的になるし、なにより《火焔の煌めき》の連中に会ったら大変だ。
どうすべきか……
「んー……」
「ワンッ」
ふとリオが俺の頬を小突いてきた。小さな右足を伸ばし、なにかを訴えかけている。
「なんだ……?」
リオの指し示す先には、さっき以上に耳を伸ばしているミュウ。傍目からでも、めちゃくちゃ喜んでいるのがわかる。
そしてミュウの視線の先には――ケーキが大きく描かれた看板。もちろんただのスイーツ店ではなく、奇妙な服を着た女性店員が接客する飲食店だ。
看板のど真ん中には、《お待ちしております、ご主人様》と描かれている。
「……ミ、ミュウ?」
「は、はいっ」
「もしかしなくても、あの店に行きたいのか」
「い、いえ! 決してそのようなことは!」
と言いつつ、やはり耳がめちゃくちゃ跳ねている。
「……ふむ」
まあ、アリっちゃアリか。
俺も甘いものは嫌いじゃないからな。
「よし、じゃあミュウ。あそこに行くか」
「えっ!! 本当ですか!?」
「ああ。食べたいケーキ、いまから考えとけよ」
「…………」
「うぅ……」
おいおい、突然泣き出したんだが。
「ありがどうございまず……。このご縁は一生忘れません……」
「はは、大袈裟な奴だなぁ」
と。
ミュウの全身が、一瞬だけ優しい光に包まれた。
テイムが進んだ証拠だな。
さっきまで俺と距離を取っていたミュウだが、その距離が見るからに縮まっている。
ふう……すこしは喜んでくれたようで何よりだ。
殺伐とした世界に飛び込んでしまった以上、こういう癒しは必須だよな。
そんなことを考えながら、俺たちは怪しげなケーキ店に歩を進めるのだった。
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