俺が裏社会で生きることを決めたとき、冒険者ギルドは。
「あ……あんた」
ルメリアは依然、俺を信じられないといった様子で見つめている。
「なにをしたんだい? 薬を使ったんじゃあるまいね」
「……誰が使うかそんなもん」
「クウーン!」
俺とリオの同時ツッコミが入る。
「普通の《テイム》能力だよ。同じ人間じゃなけりゃ懐かせることができる。あんたも知ってるだろ?」
「そ……そりゃ知ってるけどさ。けど――テイマーって魔物を対象にするんじゃないのかい? 獣人まで手懐けるなんて……信じられないよ」
……そうなのか?
ぶっちゃけた話、自分のスキルでありながら、他のテイマーをよく知らないんだよな。
《火焔の煌めき》にも、テイマーは俺しかいなかったし。
まあ、そんなことはいい。
この奴隷たちをテイムして、優しい人間に売り渡す。これなら商売としてやっていけるだろう。良心もそこまで痛まない。
「……それで婆さん。やたら俺に商売を勧めてくるようだが……この奴隷、もらえたりするのか?」
「ああ。というより売れなすぎて《処分》するつもりだったからね……金はいらない。持っていくがいいさ」
マジか。
ただで貰えるのか。
やったね。
俺の表情がはにかんでいることに気づいたのだろう、ルメリアはふううとため息をついた。
「不良品を貰って喜ぶなんて、つくづくわからない男だねぇ。……ほれ。あげるよ」
「これは……?」
「空き屋の鍵さね。商売するにしても、土地がなけりゃ話にならんだろう」
「……いいのか?」
ほんと、至れりつくせりだな。
裏社会って、こんな良い場所だったのか?
「ただし、家賃はきちんともらうからね。一ヶ月につき銅貨一枚。どうだい?」
「ど、銅貨一枚……!?」
俺は大きく目を見開いた。
表社会においては、どんなに安物件でも銀貨一枚は必要だったはず。それが銅貨一枚とは……破格ってレベルじゃない。
やばすぎるぞ。
「婆さん……どうしてここまでしてくれるんだ」
「ヒッヒッヒ。その代わり、そこは《いわく付き》だからねぇ。いくらあんたでも、そこは――」
「そうか。幽霊が出るんだな。それくらいなら造作もない」
「……は?」
「恩に着るよ婆さん。色々助かったよ。ここで新しく商売始めるから、たまには顔を出してくれな」
「あ……そ、そうかい」
どうにも納得いかなそうな表情で頷くルメリア。
「ほんと、あんたも変わってるね。それほどの度胸があれば、表のほうがうまくやっていけるんじゃないのかい」
「…………」
「いや、やっぱりなんでもないよ。あんたにもそれなりに事情があるんだろう。表の人間みたいに手取り足取り教えるつもりはないが……なんとか頑張ってみな」
表社会――か。
できれば戻りたいけれど、いまさら俺を雇ってくれる場所なんかないだろう。
だったら、この世界でとことん生き抜いてやるさ。なんとしてでも。
――そのようにして、俺の裏社会デビューは始まるのだった。
★
――一方で。
最強ギルド《火焔の煌めき》のギルドマスター――ライオス・バーンは、かつてない高揚感を感じていた。
アベル・ウンディーネ。
あいつはとことんポンコツだった。
犬狼をテイムしているからといって、自分はなにもしないでふんぞり返っていたから。たしかに犬狼の《ステータス2倍》は強力な能力だが、ギルド全体の戦闘力が底上げされた現在、あいつは邪魔でしかなかった。
……にも関わらず、あいつ、まるで追放されたことを信じられない顔していやがったな。
とことん馬鹿で間抜けな野郎だ。
ギルド全体が勢いづいているからこそ、ポンコツは早めに粛正しておきたい。
「よし……あいつの人件費が浮いた分、あいつを雇えるぞ……」
そしてもうひとつ、ライオスには企みがあった。
「待っててくれよイレーナ。おまえのために、席をひとつ、用意しておいたからな……!」
凄腕の魔術師イレーナ・マトレイヌ。
冒険者ランクはなんと最高のS。
ちなみにランクは最低でE、最高はSまであるが、Sランクとなると世界で数十人しかいない。
そのうちのひとり――イレーナが来てくれるとなれば、まさにギルドは安泰も安泰。最強伝説にさらに拍車がかかる。
だが、彼女は強い分、他の冒険者よりも多く人件費を捻出しなければならない。そこで思いついたのが、ギルドに巣くっているお邪魔虫――アベルを追放するという策だった。
しかもイレーナは超絶美人と聞く。もしワンチャン狙うことができれば、ライオスは公私ともに大成功だ。
「けっけっけ。イレーナちゃん、どんな子だろうなぁ……」
そんな夢想を繰り広げながらニヤニヤしていると。
「マスター! 報告だ!!」
ふいに、ギルド所属の冒険者が勢いよく入り込んできた。
見るからに火急の用件だ。
ライオスは夢想を辞め、仕事の表情に戻る。
「……状況は?」
「グレッグたちが大怪我を負っちまったらしい! いま別ギルドの冒険者が向かってくれてるようだが――かなりやべぇらしいぞ!!」
「グ、グレッグたちが!?」
グレッグといえば、ベテランのBランク冒険者だ。ギルド内でも中堅に当たる彼がやられただって……!?
「そ、それで! 魔物は?」
「そ、それが……」
急にどもる冒険者。
「おい! 緊急の用件なんだから簡潔に答えろ!」
「まぁ……それがゴブリンエースだそうで……」
「はぁ!? ゴブリンエースぅ!?」
おかしい。
ゴブリンエースとは、ゴブリンの亜種に当たる魔物のはず。
もちろんゴブリンよりは強いが、それもせいぜいCランク冒険者クラスであれば倒せるはずなのに……
なぜ。
なぜBランクのグレッグが……!?
――まさかアベルがいなくなったから……?
いやいや、そんなはずはない。
あいつのテイムしていたリオは、せいぜいステータスを2倍にしかできなかったじゃないか……!
「おい……」
ライオスはなかば放心状態で冒険者に訊ねる。
「グレッグの救助……他のギルドが向かってるって言ってたか」
「あ、ああ……」
「馬鹿野郎! ゴブリンエースごときにBランク冒険者が負けたなんて、ウチの名が傷つくじゃねえか!! いますぐウチの冒険者を向かわせろ!! すぐにだぁぁぁぁあ!!」
我を忘れて叫ぶライオスだった。
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