おい、本当にいいんだな?
「アベル! おまえさ、いい加減気づけよ!」
「……は?」
ギルドマスターから突然キレられ、俺は呆然とする。
「おまえはウチのお荷物なんだ! いるだけで大迷惑なんだよ!」
「な、なんだって?」
冒険者ギルド。
その受付カウンターにて、俺はギルドマスターからひどい叱責を受けていた。
「クスクスクス……」
「なんだあいつ、いままで自分の無能さに気づいてなかったのかよ……」
「これだからクズは……」
周囲の冒険者たちも、俺を見ては醜い笑いを発する。
そう。
俺の味方は誰ひとりもいなかった――ただ一匹を除いては。
「ワン!」
俺の肩に乗る小さな犬狼――《リオ》が怒りを込めて吠える。
犬狼。
手の平サイズの小さな魔物で、成長するまではさしたる戦闘力もない。しかしながら犬狼は強力な特殊能力を持っており、リオは仲間全員のステータスを2倍にする力を持っている。
聞いての通り異常な強さだ。
しかも成長すれば戦闘面でもかなり期待できるようになる。
だから凄腕テイマーでも懐かせるのに苦労する魔物だ。俺もそこそこ腕の立つテイマーとして、リオをテイムできたことを誇りに思っていたのに。リオが来てからギルドが大躍進したのに。
「じょ、冗談だろギルドマスター」
俺――アベル・ウンディーネは苦笑とともに返答する。
「これはなにかのギャグなのか? だって、リオがいるからみんな……」
そう。
このギルド『火焔の煌めき』には約50名ほどの冒険者が在籍しているが、リオはその全員に恩恵を与えているんだ。俺を追い出せば、その影響も消えてなくなる。
なのに、本当に役に立っていなかったと――そう言っているのか?
「ギャグだって? おいおいアベル、てめえは本当に頭悪ィな!!」
ぎゃはははははは!
と、嘲笑が大きく響きわたる。
「いいか? 俺たちはもう、最強ギルドにまで昇りつめたんだ! おまえの恩恵なんか借りなくても充分なんだよ!」
「…………」
おいおい、本気で言ってるのか。
「むしろアベル、いまのおまえは邪魔なんだ。なにもしていないのに金だけは一丁前にもらってやがる。おまえを雇うくらいなら、もっと強い奴を迎えるさ!」
「ワォー! ワォー!」
リオの威嚇がさらなる怒りを帯びる。
「……やめろリオ、もうなにも言っても無駄だ」
「クウウン……」
悲しそうに縮こまるリオ。
俺が迫害されることに、心底から悲しんでいる様子だ。
最強ギルド『火焔の煌めき』。
俺も古参メンバーとして、それなりに貢献してきたつもりなんだがな。それこそギルド立ち上げの頃は弱い冒険者を支えたてきたし、いまでもサポートはしっかりやってきたつもりだ。
なのに……この仕打ちかよ。
「マスター。おまえの考えはよくわかった。望み通り、ここから出ていってやるよ」
「けっ、やっと理解したか。無能は頭も悪いみたいだなぁ」
「クウウン……」
俺の頬を控えめに舐めるリオ。
気にするな……と言ってくれてるのかな。
「最後にひとつだけ聞くぞ。……本当に、抜けていいんだな?」
「あ? 往生際悪ィなおい、邪魔だって言ってんだろ! とっとと消えやがれ!」
「そうか……」
残念だ。
俺も今年で22。
18歳から今まで、それなりに頑張ってきたのに。
テイマーとしてはまだまだ未熟かもしれないけど、リオをテイムできるくらいには成長したのに。
まあいい。
予期しないことだったけど……新しい生活をスタートするには好機だろう。
俺はゆっくりギルドの出入り口まで歩むと、振り返るままに告げた。
「いままでありがとう。終わり方は残念だったが……《火焔の煌めき》は、俺にとって最高の場所だった」
「……は? ありがとう?」
ギルドマスターがきょとんとした声を発する。
俺はこみ上げるものを懸命に抑えつけ、ギルドを後にした。
「クウウン……」
俺の肩では、リオがいつまでも心配そうに鳴いているのだった。
……こんなにギルドに貢献したのに、結局は無駄だったか。
だったら俺は誓う。
あんなクソみたいなギルドマスターにはなるまいと――
★
――さて、これからどうするか。
職を失った以上、食い扶持の確保が最優先だよな。貯金もあまりしていないので、このままでは家賃も滞納してしまう。
「まずは職探しからか……」
そう呟きながら、俺は宛もなく歩き続ける。
商業都市オルワース。
字面の通り商業が活発な街なので、選ばなければ職に困ることはないだろう。
……と思っていた時期が、俺にもありました。
「アベル? ダメダメ、他を当たんな!」
「お? ウチで働きたいってか。……ってアベル? いや、悪いがウチじゃあ無理だなぁ」
飲食店。
商店の受付係。
街の清掃員。
とりあえず俺にもできそうな職種を当たってみたが、どれも門前払いだった。しかもアベルと名乗った途端に、みんな一様に嫌がり始めるんだ。
――まさか、これは……
嫌な予感を抱きつつ、屋台で野菜を売っているおっちゃんに話しかける。「スタッフ募集!」と書かれた張り紙を見かけたからだ。
だがそこで、俺は自分の直感が的中していたことを知る。
「アベル? おいおいやめてくれ、誰が喜んで地雷を採用するかよ」
「は? 地雷だって?」
俺の反応に、おっちゃんは「知らねえのか?」とばかりに目を丸くする。
「うーん。言っちゃ悪いが……この街じゃ、誰もあんたを雇わないと思うぜ?」
「……なぜだ」
「《火焔の煌めき》のメンバーがいつもおまえさんの……まあ、悪口を言ってたからな。この街じゃ《火焔の煌めき》は影響力がでけえ。商売やってるもんなら、そのへんの情報網は熟知してると思うぜ?」
……なるほど。
そういうことか。
たしかに《火焔の煌めき》だけでも50名のメンバーがいるし、その知り合いたちまで辿っていくと……影響力は計り知れない。
「いまは不況でね。どの商売人も必死なんだ。わかってくれよ」
「……わかった。無理を言ってすまなかったな」
ため息をつき、俺は身を翻す。
「参ったな……」
このままじゃこの街で働くのは無理か。
……いや、というか、他の街でも厳しいんじゃないのか?
《火焔の煌めき》には、人外と呼ばれるSランク冒険者が5人もいる。その圧倒的な戦力でもって、難敵を幾度も倒してきたのだ。
つまり、冒険者なら知らない者はいないほど有名ギルドであるわけだ。
……それほど影響力があるギルドに嫌われた俺を、果たして誰が雇ってくれるだろうか……
「ははは……」
思わず乾いた笑みが浮かんでくる。
腐ってる。
本当に腐ってるよな。
俺が……なにをしたっていうんだよ……
「働くとしたら……裏社会にでも行かないと無理か……」
と。
ぐうー、という音が聞こえ、俺は目を丸くする。
音源は俺――ではなく、リオだった。
「くううん……」
気まずそうにうなだれるリオ。
まさか……腹減ってるのを、無理に我慢してきたのか……
「ごめん。ごめんな……」
もはや四の五の言っていられない。
正規の職に就けないのであれば、裏の社会で生きるまでだ。
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