表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪鬼羅刹の如く  作者: nekuro
始まり
4/27

興味がある。お前に

そう、転校生という名目で現れたのは、昨日杉山が出会った九条だった。

本来、注目を一身に浴びる筈の転校生であるが、その役割は杉山になっていた。

クラス一同のありとあらゆる眼差しを受け、杉山はただ静かに椅子に座る。



「杉山、九条さんと知り合いか?」



担任からの追い打ち。脊髄反射で反応してしまったことを後悔する杉山。

今はそっとしておいて欲しい、と願うがそれも叶わない。



「昨日会ったばかりだ。まさか、こんな直ぐ会えるとは思わなかった」



更なる追い打ち。

九条の発言は、周囲に余計な想像を働かせるスパイスとして十分な発言であった。

肩身が一層狭くなるのを感じる杉山。

それから担任が黒板に『九条 綾』の名を書き記す。



「えー、九条綾さんだ。九条さん、何か一言言ってもらえるかな」

「九条綾だ。よろしく頼む」



雑な印象しか受けない九条の挨拶だったが、万雷の拍手で迎えられる。



「では、九条さんの席は、その空いている席で」



担任が指示した席は、藤原と呼ばれる生徒が座っていた席。

今まで使っていた席が、直ぐに違う人間に変わる事に多少抵抗があったのか、生徒から戸惑う声がちらほら挙がる。

だが、当の本人はそんな声など気にせず、言われた通りの席に座る。



「それでは、朝のホームルームはこれで終わりだ。各自、次の授業に備えろよ」



それだけ言うと担任は教室からさっさと出ていく。

担任が出て行ったのを確認した生徒たちは、一斉に動き出す。

目的は勿論、転校生……なのだが。

他の生徒が動く前から、九条は何時の間にやら席から離れ、後方にいる杉山の席の前に立っていた。

その様子を面白おかしく周りは見ていた。



「何か僕に用かな? 九条さん」

「話がある。場所を変えよう」



教室の出口にくいっ、と顔をやる九条。

反対する事もなく、杉山はそれに応じる姿勢を見せる。

だが。



「ちょっとあなた、なんでいきなり彰人に話しかけてるの!」



九条に対してくってかかる早紀の姿があった。

先程のやり取りを見て、他の生徒は面白い反応を見せていたが、早紀だけはそれとは反対の反応を示していた。

苛立ちを見せる早紀だが、九条はまるで意に介さない。



「なんだ、話しかけてはいけなかったのか?」

「あれだけ悪目立ちしておいて、よく言うわね貴女。彰人が困ってるじゃない」

「困っているのか?」

「僕は大丈夫だよ」

「嘘! どうしてそんな嘘を――」

「早紀、僕は本当に大丈夫だから。また後で話そう」



早紀はまだ言い足りない様子であったが、それを無視するように杉山と九条は教室から出ていく。残された早紀は、その場で地団駄を踏む。



♦♦    ♦♦




二人が選んだ場所は屋上だった。

空一面澄んだ青空に、心地の良い風。

コンクリートの白い床と周囲を高い金網が囲う。

その籠の中には二人以外の人影は見当たらない。

近くの金網に背中からもたれ掛かる九条。その九条と向き合う形で立つ杉山。



「手の傷はどうだ?」



口を開いたのは九条。

言われて杉山は右手の甲を見る。昨日キリによってつけられた傷は既に瘡蓋に変わっており、ほぼ治りかけていた。



「大丈夫、もう治りかけてる」

「昨日はすまなかった。キリは普段ああいう奴ではないのだが」

「構わないよ。不用意に触ろうとした僕も悪かった。これが話?」

「それとは別だ。あの場所で言うのは抵抗がある。その点、ここなら邪魔はいない」

「じゃあ、話というのは?」



一体何を言うつもりなのか? 杉山は固唾を飲んで九条の次の言葉を待つ。



「今度の日曜日、空いているか?」

「え?」

「知っての通り、私はこの街に来て日が浅い。知り合いもいないので、街の案内を頼みたいのだ」



意外な言葉だった。

本来なら知り合って間もない相手に、こんなことを頼むのは図々しいという他無い。

断るのが当然なのだが。



「良いよ」



二つ返事で杉山は了承する。

元より九条に対して興味のある杉山にとって、この頼みは渡りに船。

快諾を貰えた九条も、僅かに口端を歪ませた。



「では、日曜日。頼むぞ」



九条はフェンスから体を離し、杉山の横を通りすぎていく。

その際。



「――私は、お前に興味がある」



耳元でそう、囁いた。

一瞬であったが、それは何かの呪詛のように杉山の耳に残った。

九条はそのまま屋上から降りていくが、杉山は茫然と立っていた。




良ければ☆評価お願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ